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?@そば屋のかまどの煙突がトタン張りの壁面から約12cmの位置に設けられていたため、その煙突の輻射熱による長時間の過熱によって炭化していた壁面のトタン裏側の木ずりから発火し火災となった事例(東京地裁昭和46年11月27日判決)

?A救護施設を抜け出した不良児3人が倉庫の床下にもぐり込み、同倉庫内で喫煙していたが、そのうちの1人が同所にあったカンナ屑に火をつけて遊んでいるうちに火勢が拡大し、倉庫及び隣接する家屋を焼失する火災となった事例(那覇地裁昭和50年6月28日判決)

?Bクラブのホステスが深夜勤務を終えて木造共同住宅1階居室に帰宅し、ガスストーブに点火したままベッドに入って寝てしまったため、ベッドからずり落ちた掛布団にガスストーブの火が燃え移って火災となった事例(新潟地裁昭和53年5月22日判決)

?C木造2軒長屋式の建物で、風呂の空焚きから火災が発生した事例(東京地裁昭和50年9月23日判決)

今まで説明してきましたのは、いわば一般的な不法行為に基づく損害賠償責任(一般的な不法行為責任)のことですが、このほか、特殊な不法行為責任の形態として、「責任無能力者の不法行為に対する監督義務者等の損害賠償責任」(民法第714条)、「使用者責任」(同法第715条)及び「工作物責任」(同法第717条)などがあります。

 

(2) 責任無能力者の不法行為に対する監督義

務等の損害賠償責任

 

ア 意義

火災との関連で、「責任無能力の不法行為に対する監督者等の損害賠償責任」というのは、例えば、幼児の火遊びで火災が発生し、このために他人に損害を与えた場合のように、責任無能力者(自分の行為の責任をわきまえる能力のない者、おおむね11才前後より下の未成年者、あるいは、心神喪失者)が他人に損害を与えた場合には、当人自身は賠償責任を負いませんが(民法第712条、第713条)、そのかわり、親権者(両親など)とか後見人などの監督義務者や監督義務者に代わって監督する者(幼稚園の保母とか精神病院の医師など)は、被害者に対しその損害を賠償しなければならないということです(同法第714条)。

 

イ 失火責任法との関係

幼児の火遊などによる失火の場合のように、責任無能力者の不法行為に対し、失火責任法が適用されるのかどうかについては、従来いろいろの見解が分かれて統一されていませんでした。したがって裁判例もまちまちでしたが、平成7年1月24日の最高裁判決は、この種の失火についての失火責任法を適用し、「監督義務者に未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、賠償責任を免れるものと解するのが相当である」と判示し、この問題について決着をつけています。したがって、今後は、責任無能力者による失火については、監督義務者等に重過失があったと認められるときに限り、被害者に対し賠償責任を負うことになります。

 

ウ 裁判例

責任無能力者の失火について監督義務者の賠償責任が認められたものの一例として、次のような事例があります。

?@8才の男児のマッチによる火遊びが原因で火災となり、賃借していた建物と建物所有者の家財が焼失した事故について、民法第714条のみが適用され、監督義務者(親)に損害賠償義務があるとされた事例(福岡地裁小倉支部昭和47年1月31日判決)

?A5才の子がローソクに火をともして押入れの中に入っているうちに、この火が新聞紙に燃え移って火災となった事故で、責任無能力者の行為から生じた火災には失火責任法の適用はなく、民法第714条をそのまま適用するとして親の損害賠償責任が認められた事例(東京地裁昭和48年4月11日判決)

?B木造倉庫が小学1年生の火遊びから火災となり、倉庫と倉庫内に収納されていた商品が焼失したほか、隣接建物の一部にも延焼した事故について、失火責任法が適用され、火遊びに対する親の監督義務の懈怠は、重大な過失にあたるとして親の損害賠償責任が認められた事例(大阪高裁昭和56年4月15日判決)

『(後)は10年2月号に掲載します。』

 

 

 

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