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商売嫌いが生きるために選んだ呉服屋という天職

「よくインタビューなんかで昔のことを聞かれるけれど、回顧するのは、あまりいいことではないわね。思い出話にひたるよりも、明日のことを考える方が好き。人生は前進して反省して、また前進する。わたしはそうやってきたわ」

開口一番、そういってのけるのは、東京・上野を本拠地に全国展開する大呉服店チェーンの会長を務める小泉清子さん。決して名ばかりの役職ではなく、未だに現役のバリバリである。全国の支店を駆けめぐり、毎年、春と秋にはきものデザイナーとしてコレクションを発表する一方で、全国商工会議所婦人会連合会会長、東京商工会議所国民福祉委員会委員長など数々の公職を歴任している猛女。一五〇センチに満たない小柄、色白のにこやかな笑顔、品の良いきもの姿のこの女性のどこに、そんなパワーが秘められているのか不思議な気がする。

小泉さんは大正七年上野車坂の商家に生まれた。昭和一四年に結婚し二児をもうけるが、結婚四年で夫は出征。一家の大黒柱を欠いたまま終戦を迎え、一気に生活の労苦がのしかかってきた。しかも戦後の混乱期、女性でなくても仕事を得ることはむずかしく、幼子を二人も抱えていては、なおさらであった。そんなとき、母の「あなたはきものが好きなんだから、呉服屋をやってみたら」というひと言が決め手となって、呉服屋の道を選んだという。

「母はきものが似合う美しい人でして、二十数回もお見合い歴のある父が、ひと目で気に入ったほど。

 

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昭和26年頃、店頭で。

 

 

 

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