が、昨年暮れに実施した『老人ホーム入居者一一〇番・緊急電話相談室』への相談内容にも、「入居者に対する虐待がひどい。入居者の要望に応えたら、他の職員から責められた(施設職員)」「ポータブルトイレが使えるのにオムツをするように職員からいわれ、ポータブルトイレは隠された(家族)」「通帳を預けてあるが、三年間一度も明細を見せてくれない(家族)」など、数々の不満の声が寄せられている。病んだ心身への最低限の世話はしてもらえるが、それ以上でもそれ以下でもないというのが現状のようだ。
全国の特養などを視察し、その事情に詳しい本間郁子さんは、こうした現状に対し、「なによりも人手不足の問題が大きい。個々のお年寄りのきめ細かいニーズに応え、精神的な安らぎも与えてあげるには、職員だけでは不可能。ボランティアとの協力体制が不可欠です」ときっぱり。
「特養で一番大変なのが、入居者同士の人間関係なんです。相部屋では、夜、テレビを見たくても周囲を気にして見られない。家族が見舞に来ても、内輪話もできない。生活習慣も価値観も違うお年寄り同士が同居するわけですから、イジメに発展するケースも少なくないんです。人の生活する場所の基本条件は、プライバシーが保てる、プライドが大事にされる、自分のしたい時にしたいことができる自由、の三つ。また、散歩をしたい、風邪を引いたから部屋で食事をしたい、といった本当にささやかなニーズにも、今のホームでは応えられていない。でも、こうした点すべてを職員だけでまかなうのは無理です。そこを補うのがボランティアの存在。もちろん、職員の質の問題もありますが、地域に開かれた施設は、施設内外の交流も生まれ、また多くの人が入ることでサービスヘのチェック機能も働き、お年寄りの満足度も高まるはずです」と本間さん。
なるほどね。特養を少しでも居心地のよい「住まい」にするためには、行政側・施設側にだけ頼っていてはいけない、市民参加が重要なキーポイントになっているということか。最近では特養の個室化も進みつつあり、また利用料金を支払えば、措置をされないでも個人契約の入居ができる「契約制特養」などもでてきている。一〇〇%自宅と同様の居心地を求めるのは無理でも、主に、個室化というハードルは行政が、基本的介護という部分は施設側が、そして心のうるおいの面では私たち地域の市民もボランティアでと、みんなで力を出し合ってお年寄りを支えれば、たとえ寝たきりとなっても相当満足度の高い「住まい」ともなり得ると思うのだが、どうだろう。