当然、丈が長すぎて、裾を四つぐらい折り上げないといけない。しかも歩ける方だと、裾がずり落ちたりもして危険なんです」
中で生活している人にとっては、日常のことだから当たり前になっていても、栗田さんたちにとっては、すべてが新鮮。気になる点は山のように見つかった。袖口や裾口が広いとひっかかって危険。車イスを利用していると足元が冷えて寒い。手が不自由になると通常のズボンのファスナーでは開けにくく、それでトイレが間に合わずに失禁してしまう場合もある等々。
「そこで、どうすればこうした問題を解決できるかをみんなで考え、ゴムやマジックテープ、ファスナーなどを駆使して着にくさを解消した服を試作し、病院や施設に持っていって実際に使用してみてもらうことにしたんです」
サンプルは、靴の上からはけるファスナー開きのボアのブーツ(車イス用)、敷き毛布からつくったポンチョとひざかけ(車イス用)、マジックテープを利用した急ぎトイレズボンなどさまざま。だが、粟田さんたちの思いとは裏腹に、どれもこれもが必ずしも好評というわけではなかったという。
「たとえば、介護者がお年を召している場合、オープンファスナーを使った服は、不評でした。老眼で、目が見えにくいからファスナーが入りづらいんだそうです。今は介護をする側もお年寄りということも少なくありませんから、当事者のことだけを考えてもダメなんですね」
こうして指摘を受けたものに対しては、そのたびに持ち帰って改良を重ねた。ちなみに、オープンファスナーの問題は、合わせ目のところに磁石を付けて、すうっと導かれるようにしてはめられるようなものを、メーカーに依頼して開発してもらい、解決したという。