百人の一歩を大切に
日本一の電脳村として、全国に注目されている山田村。今後、テレビ電話システムの利用による健康診断や健康相談、在宅福祉にも取り組たいと夢は広がる。また村の広報や回覧板の電子メール化を視野に入れた情報化を展開していく予定である。ホームページを活用した特産品の販売や、観光PRなど、夢のある事業がすでに展開し、小学校や中学校ではコンピュータを取り入れた授業を通して、子供たちの視野は大きく広がった。
また、外部との情報交流を通して、住民の心にふるさとを誇りに思う気持ちが育まれている点も見逃せない。数字としては現れないが、住民の心の中に、暮らし方に、変化が生じている。
その一方、パソコンの配付を希望しなかった約三割の世帯との情報格差、視野の違いは、次第に広がりつつある。これをどう縮めるかが大きな課題だ。今後は、この『魔法の箱』を使って、何をやっていくのか、さらに具体的な計画の段階に入った。むしろ、これからが本番だ。情報センターを預かる岩杉さんとしても頭が痛い。だが、決して悲観的ではない。
「数字だけで見ると、パソコンの稼働率は配付した三分の一に過ぎず、事業として成功しているとはいい難い。でも着実に村民の暮らしの中に浸透してきていることは事実であり、何かが変わりつつあるのをみんなが感じている。むしろわたしたちはそこに目を向けていきたい。地域をつくるのは一人じゃない。一人の百歩より、百人の一歩を大切にしたいと思っています」
コンピュータというハイテクを利用して、なお、望むのは地域の人々のさらなる心の交流であり、支え合いであるのだから、なんと欲張りで、そしてなんと楽しいことか。昨今、コンピュータ普及により、人と人とのつながりが薄れてきていると指摘されているが、原因はコンピュータそのものではないはずだ。今後、日本の方々で、さらにコンピュータ化の波は進む。人とコンピュータとの息の通った共生の仕方を、小さな小さな村が必死に探っている。それぞれの町で、それぞれの地域で考えてみたいテーマである。