表紙絵から
池田げんえい/1946年神奈川県生まれ。日本児童出版美術家連盟、現代童画会会長。創作『鬼の会』同人。日本デザイナー学院講師。はり絵作家。
● 平成・東海道五拾三次
その31「舞坂」

―今切、浜名大橋―
「浜名湖名産カキフライ」の看板につられて、小さな大衆食堂に入った。客はボクひとり。店のおばちゃんと二人っきりというのも気詰まりで「今切」(いまきり)への行き方を尋ねる。この地名、浜名湖が今、切れて太平洋につながったところから付けられたとか。ウームとうなずきながらカキフライを食べていると、いつの間にか電話で今切のバスの降り口を聞いてくれていた。「舞坂の者はみ〜んな親切だに〜」と、近くのバス停まで見送ってくれたおばちゃん。ちょうどバス停には遠鉄バスの制服姿の老運転手。非番明けか。ボクをカメラマンと見たらしく、盛んに話しかけてくる。相当なカメラ趣味(マニア)らしい。ボクは愛用カメラ「ハナペチャミツコ」を見せながら、「キズついたカメラを持ってこそ"フォトグラファー"の勲章です」などとのたまう。老紳士はニッコリ笑ってうなずいた。

安藤広重絵 「舞坂」
明応7年(1498)の大地震で浜名湖と遠州灘が大きく切れ、街道は分断された。それ以来ここを「今切」と呼んで、船渡し場となったという。対岸の山は広重が美的効果をねらって大きく描いたもの。その山並みの向こうには富士の白峰が顔をのぞかせている。