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において有用であるか、日常的なトレーニングの実施によってどの程度それらの変数が変化する可能性があるのか等についての細かい検討はまだ十分行われていない。

そこで本研究班では、1)運動能力に関する測定項目の妥当性の検討と体力・健康状態や幸福度等についての主観的認識度の関連等についての調査研究、2)1)において有用と思われた測定項目におよぼすトレーニングの影響の検討を行い、中高年齢者の加齢にともなう身体作業能力やQOLの変化を評価し得る指標を開発するための基礎資料を得ることを目的とした。

 

1. 初年度:加齢にともなう中高年齢者の身体作業能力やQOLの変化を評価し得る指標を開発するための基礎資料を得ることを目的として、18〜76歳の80名の女性を対象に運動能力の測定と健康状態や体力等に関する主観的評価を行った。その結果、

1) 形態、歩行能力、平衡機能、脚伸展パワーの加齢にともなう変化は直線的というより、2次曲線的であるように思われた。

2) 脚伸展パワーは年齢と高い相関を示し、また足圧中心動揺や歩行能力と高い相関関係が認められ、体力の加齢変化をきわめて敏感に評価する指標であると思われた。

3) 歩行能力(10m直線・ジグザグ歩行、3分間シャトル歩行)は年齢や他の運動関連変数と有意に関係しており、簡便できわめて有用な指標であると思われた。

4) 高年齢群では体力や人間関係満足度、総合的な幸福度などについての主観的評価と脚伸展パワーや歩行能力との間に有意な関係が認められ、主観的な指標と高年齢群の運動能力(移動能力)が密接に関連している可能性が考えられた。健康状態や体力レベル、満足度、幸福感などに関する主観的な評価方法の feasibility は、さらに検討すべき興味深い課題であると思われた。

 

2. 次年度:運動習慣を持たない中高年齢女性を対象に、日常的に行える内容の低〜中等度強度、低頻度のトレーニングを実施した場合に日常生活の身体活動水準が高まるかどうか、そしてそれにともなう身体作業能力に関連した変数の変化をどのような指標によって評価することができるかについて基礎資料を得ることを主な目的としたトレーニング実験を行った。週1回、約60分間の運動教室を10週にわたり実施した結果、

1) 日常生活の身体活動水準(1日あたりの平均歩数)はトレーニングの進行にともなって有意に高まった。

2) 歩行能力(10mジグザグ歩行時間、3分間シャトル歩行距離)と脚筋力にはトレーニング後有意な改善が認められた。

3) 形態、柔軟性、骨密度に関しては、トレーニングによる有意な変化はみられなかった。

4) 特に運動習慣のない中高年齢者が対象の場合、比較的低い強度の身体トレーニングでも日常生活の身体活動水準を高めることは可能であると思われた。また、このようなトレーニングの実施による身体作業能力の変化を評価する際には、歩行能力と脚筋力に関する測定変数が有用な指標であると思われた。

 

3. 最終年度:初年度に歩行能力や脚筋力と高い相関がみられたにも関わらず、未検討のままであった平衡機能あるいはバランス能力について、特に動的状態での姿勢調節能力の観点から動的平衡機能の評価方法を試作し、それと静的平衡機能や初年度に報告した下肢筋力等との関連について検討した。ここで行ったのは、移動視標追従(トラッキング)法の試作と、動的姿勢調節能力と静的平衡機能や下肢筋力等との関係についての検討であり、13歳〜72歳の女性61名について、周波数の異なる5種類の正弦状波形を移動視標とし、被検者のCFPの視標ピークに対する時間的ズレ(TL)と振幅のズレ(ML)を記録したその結果。

1) 左右各脚の最大等尺性膝関節伸展筋力と年齢との間には有意な負の相関がみられた。

2) 左右各脚の最大等尺性膝関節伸展筋力とCFP動揺、各条件でのTL,ML間には有意な相関は認められなかった。

3) CFP動揺と年齢間には有意な関係はみられなかったが、左右方向0.5Hz時のTLと年齢間には1%水準で有意な相関が認められた。

4) 60歳以上の被検者で従来の体力測定項目について測定した結果、TL,MLと比較的相関がみられたのは反復横跳びであった。

5) 移動視標追従により動的姿勢調節能力を評価するのは可能であると思われるが、精度を高めるためにはより詳細な検討が必要である。フィールドに応用できる方法としては反復横跳びを修正した形のものが可能かもしれないが、今後の研究が必要である。

以上の結果から、本研究班では加齢やトレーニングの影響を評価する指標としては、歩行能力と下肢筋力(脚筋力)がきわめて有用かつ簡便な指標であること、およびそれらの指標と比較的高い相関関係にあり高齢者の「転倒」問題を考えるうえで重要な要素である平衡機能・姿勢調節機能に関しては特に動的状況での評価方法を開発することが今後必要であると考える。

 

 

 

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