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中高年者の筋力および運動能力の低下は、加齢による生物学的な影響と身体不活動による環境的影響とが相互に重なり合って生じると考えられる12,19)筋は適切な負荷を与えれば肥大し、逆に負荷が与えられなければ萎縮するが、身体全体の不活動による筋萎縮はすべての骨格筋に均等ではない11)。つまり、不活動によって大きく萎縮する筋とそれほど萎縮しない筋とがあると考えられるのである。このような不活動による筋萎縮の部分による差異が身体全体の骨格筋に生じた場合に、通常の身体運動では「あまり萎縮しない筋が極端に萎縮した筋を補う」という調整が行われているのではないかと推察される。

これまで、20日程度のヘッドレストによって、筋萎縮が生じ、その筋の形態的変化よりも筋機能(筋出力)の低下の方が著しいことが報告されている2,11,13,14,16)。この場合の筋出力は、測定機器に体肢を固定した単関節運動に依っており、ヒトの「自由な身体運動」を対象にして不活動の影響を調べた研究は少ない(ここでいう自由な身体運動とは、測定機器に体肢を固定しない複数関節による複合動作を示す)。Ferretti6)は、ヘッドレスト前後の垂直跳の発揮パワーの変化について検討し、ヘッドレスト後発揮パワーが24%減少し、それは約1.5ヵ月でもとにもどると報告している。しかし、Ferretti6)は身体全体(つまり身体重心)の発揮パワーについて観察しているだけで、下肢関節個々(つまり下肢伸筋群個々)の特徴については検討してしいない。筋萎縮にともなう運動の調整を調べるためには、関節個々の働き、つまり関節の貢献7,8)について検討する必要がある。

そこで本研究では、自由な身体運動として垂直跳を選択し、ヘッドレストによる下肢筋力の変化と、それに応じた身体運動中の調整能を下肢3関節の貢献によって評価することを目的とした。

 

研究方法

1) 被検者:実験では、定期的な運動習慣をもたない計5名の男性被検者(年齢:18〜24歳、身長:171.0±3.8cm、体重:68.5±15.1kg)を対象とした。この実験は、東京大学におけるヒトを対象にした倫理委員会に認可を申請し認められたものである。また実験に先立ち・各被検者から実験参加への同意書を得た。

2) ベッドレスト期間とトレーニング:各被検者に20日間のヘッドレストを課し、その間、毎日、片足(右脚)のみトレーニングを行わせた。トレーニングは、等速性筋力測定器(Cybex,Lumex社製)を利用し、1日に60deg/sx50回と180deg/sx50回の全力膝伸展とした。等質の筋と考えられる左右の脚を対象に、トレーニングの影響とヘッドレストの影響をみようとした。

3) 筋力測定:ベッドレスト前後で膝伸展筋力を筋力測定器(Cybex,Lumex社製)によって評価した。筋力は膝角度120度での等尺性最大筋力とした。

4) 垂直跳:ヘッドレスト前後に、被検者に「垂直跳」を行わせ、自由な身体運動でみられる下肢関節の動態を観察した。動作は、膝を90度に屈曲させた姿勢から、反動を用いない最大努力でのスクワットジャンプで、両脚、片足ずつの計3種類の試技を行った。すべて手を腰において腕振りの影響をなくし、また片足跳躍では遊脚を支持脚につけ、遊脚の振り上げの影響をなくした。動作は、圧力盤(Kistler社製)上で行い、側方からQuickMAG(電気計測販売社製、60Hz)によって撮影した。跳躍高は、踏切離地時の垂直初速度から求めた。踏切離地時では、足関節が底屈した状態なので、通常(立位姿勢を基線にした場合)よりも13cm程度低い値になる12)。3回の試技の中で解析の対象にしたのは、動作直前に反動動作がみられないことを床反力曲線で確認し、その中で最も跳躍高が大きい試技とした。

5) 下肢関節トルク・パワー・仕事量:垂直跳動作中の下肢3関節(股・膝・足関節)の発揮トルクは、身体を4分節(上体・大腿・下腿・足部)からなるリンクセグメントモデルと仮定し、逆ダイナミクスによって推定した20)。関節トルクに関節角速度を乗じて関節パワーを求め、関節パワーを時間積分することによって関節のなした仕事量を算出した。

6) 統計処理:ヘッドレスト前後を対とする差

 

 

 

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