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がら、これまで、歩行運動と視覚情報との関係を明らかにした研究は少ない。特に高齢者の特徴を調べるという研究は極めて少ない。そこで、アイカメラを用いて、実際の歩行運動中の解析を行うことにした。この研究は、アイカメラを用いた最初の研究であるので、まず、どの程度までアイカメラのシステムがこの研究に応用可能であるかについて検討することにした。被検者は学生を用いた。

研究方法は、2つの方法によった。その1つはビデオで歩く場面を撮影しておき、その画面をプロジェクターで見せながらアイカメラで分析する方法である。もう1つの方法は、実際にアイカメラを装着して歩行する方法である。後者のほうは、実験方法および条件が格段に困難であるが、後者のほうで応用を試みることにした。その結果、歩行中にアイカメラが若干移動し、その都度校正しなければならないなど、定量的な解析には、若干の問題点が残ったものの、定性的な解析には使用できることを確認できた。

 

3. 高齢者の階段降り歩行中における眼球運動の特徴(1998年)

階段にはさまざまな種類や場所があるが、普段よく利用する一般的な場所を選ぶことにした。すなわち、公共交通施設として、一般によく利用されるJRの駅の階段を利用して実験を行った。また、高齢者の眼球運動の特徴を理解するために、比較対象として学生を用いて同様の実験を行った。実験結果をまとめると以下のとおりである。なお、被検者は、東広島市在住の高齢者5名、学生は5名であった。

1) 学生と比較して、高齢者において眼球運動の移動範囲、移動距離ともに小さいことが得られた。すなわち、高齢者の特徴としては、比較的狭い視野の範囲で階段を降りているという特徴が示されたと言えよう。

2) 眼球停留時間は、高齢者は、学生に比較し長い傾向を示した。学生では、0.75秒以上の累積の停留時間は認められなかった。つまり、高齢者は、学生に比較して一点を注視している時間が比較的に長いということを意味するものと理解した。

3) 歩行中に連続的にアイカメラを使用すると、カメラの位置が微妙にずれることがあった。頻繁にキャリブレーションをすることにより適正な状態にした。

アイカメラを用いた実験においては、定量的な測定には、ある程度このような補正をする必要があると思われる。しかしながら、定性的な分析に関しては、十分利用できる事が分かった。あらかじめ収録した歩行中の画像をプロジェクターで提示し身体を静止したままの状態でもアイカメラの分析を行ったが、できるだけ実際の条件で行うことが重要であると考えられた。

 

 

 

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