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とらえるものである。

走運動を獲得したばかりの段階では、バランスの保持が不十分なため、まっすぐに走れなかったり、接地足の左右方向の隔たり(Step width)が大きかったりするが、年齢にともなって歩長が増大し、歩幅が小さくなり、走運動が安定することが推察される。しかし、幼児の走運動中の歩幅に関する報告は見あたらない。したがって、走運動を後方から撮影して歩幅を分析し、歩長との関連から歩幅の年齢変化を明らかにすることは、幼児の走動作の発達をとらえる上で有意義であろう。

Wickstrom13)は、もっとも初期段階の走運動パターンは、脚や腕を身体の長軸まわりで大きく回す運動に特徴づけられるので、こうした回転運動を効果的にとらえるために、走者の前面あるいは背面から走動作を観察する必要性を指摘するとともに、背面や前面からとらえた子どもの初期の走動作について3つの特徴をあげている。それによれば、背面からみると(1)回復脚を前方に運ぶ局面において膝が外側に振り出され、まわして前方へ運ぶこと、(2)この膝の動作にともなって、足先が外輪になること、(3)こうした脚の動作に対応して、腕は後方で伸ばされ、大きく外側に振り出され、前方では手が上体の中心線をクロスしてひっかくような動作(Hook motion)をすることであり、これらの動作が年齢とともに次第に少なくなると考察している。しかし、Wickstromの報告は、子どもの前面と背面からみたいくつかの走動作の例に基づく試験的考察であり、年齢の異なる子どもを対象に実験的に確かめたものではない。したがって、上述したような特徴がいつ頃から、どの程度みられ、年齢にともなってどのように変容するかは不明である。

本研究の目的は、(1)幼児の走動作を側面と背面から撮影し、歩長と歩幅の年齢変化をとらえること、(2)背面からみた走運動中の腕と脚の動きとその年齢にともなう変容を明らかにすることであった。

 

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研究方法

 

1. 被検者

本研究の被検者は、表1に示したような身体的特徴を持つ1歳から5歳までの保育園児107名(男子91名、女子16名)であった。保育園の実験時の諸事情から、各年齢における女子の被検者数が顕著に少なかった。

そのために女子の経年的変化がとらえ難いこと、また、これまでの報告からみてこの年齢での走動作に顕著な性差が認められないことから、本研究の結果については同年齢の男子と女子をいっしょに扱い、年齢にともなう変化をとらえることにした。

 

2. 実験方法

全被検者に25m全力疾走を行わせ、2台のビデオカメラ(ナショナルAG-350)を用いて疾走フォームを左側面と背面から撮影した。スタートから15〜18mを主な撮影区間とし、歩長や歩幅の算出と疾走中の脚や腕の動作の特徴を観察するため、図1のように撮影区間の走路の両側に50cm間隔に距離マークを置き、幅1.2mの走路に10cm間隔で白色のヒモを進行方向と平行に設置してスケールとした。側方のカメラは撮影区間の中心から30mの地点から、後方のカメラはスタートラインの後方5mの地点から、いずれも毎秒60フィールドで撮影した。

 

3. 分析項目

側方から撮影した画像の分析から各被検者の2歩の平均歩長を、後方から撮影した画像の分析から2つの歩幅の平均値を算出した。歩幅については、図1のように接地足の踵の中点から基準とな

 

 

 

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