日本財団 図書館


ちテストが適当、との提案がなされた。また、運動クラブで日頃運動している高齢者をとり上げバランス能力を含む体力テストを実施した結果、一般の在宅高齢者に較べて太極拳や社交ダンスで足腰を鍛えている人々の方が明らかに優秀で、特にバランス・テストと垂直跳びに優れていることが明らかとなった。また身体重心の動揺軌跡についても分析したところ・その軌跡長や広がりにおける加齢変化と、諸々の体力要素との密接な関係が明らかになった。

バランス能力は歩行運動にも必要であるが、とりわけ障害物のある危険な場所では、バランスの失調がすぐさま転倒につながり、「寝たきり」の原因となる。渡部班ではこの点に注目して、まずは「階段をおりる動作」を三次元的に分析し、大腿部を高く引き上げてから膝を深く曲げて着地する動作が、高齢者にみられる特有の動作であることを報告した。次いで、アイカメラを装着して駅の階段を降りるときの注視点の分析を行ったところ、若年者に較べると高齢者の方が眼球運動の移動範囲が狭く移動距離も短かかったことから、狭い視野で階段を降りる高齢者の危険性が指摘された。

歩行が振子運動のように効率よく行われるかどうかについて金子班では、フォースプレートを用いて自由歩行における力学的エネルギーを調べ、若年者では、筋活動によるパワー(外的パワー)の大きい人は力学的エネルギーの変換効率(振子効率)が低いのに、高齢者では歩行中のパワーの大きい人ほどエネルギー変換効率も高い、という結果を得た。そこで、高齢者の歩行スピードの遅い原因として指摘されている「歩幅の狭さ」には、歩行中のパワー発揮が少ないことと、エネルギー変換効率の低いことの両者が関係していることを指摘した。また、意識して大股で歩くと、歩調が増加することなくスピードが増加し、筋活動によるパワーも明らかに増加することから、大股歩きによってパワフルな歩行訓練のできる可能性を示唆した。

深代班では、ベッド休息による運動不足の影響と筋力トレーニングの効果を課題とした。ベッド休息(20日間)の影響を垂直跳び運動で調べた実験では、膝と脚関節による仕事量の低下にもかかわらず股関節による仕事が増加したことから、「膝・脚関節のパワー不足を股関節のパワーが補償した可能性」が推察された。また、筋力トレーニングの実験で、レジスタンス・トレーニングが高齢者の歩行運動にどう影響するかを調べたところ、歩幅と歩調および股関節の開き具合には変化はないが、着地から踏み出しへの局面で膝がよく伸びるようになった。このことから、筋力を強化すれば、脚をしっかり伸ばして歩く歩行動作となる可能性が示唆された。

歩行運動に見られるように日常生活で頻繁に行われる運動は、その多くが本能的になされ、また習慣的な行動を通して反射化されており、また、高齢者の歩行能力があらゆる体力要素と有意な相関関係を示すように、調整力の発育発達と老化には、神経機能のみならず筋力、瞬発力、柔軟性、持久性といった多くの体力要素の変化が関わっている。そこで本委員会では、調整力を広義の「動作調整能」と捉えながら、その幼少期における獲得と発達、および高齢期における退行・変性(老化)の問題を取り上げて一定の成果を収めた。しかし、調整力の保持増進に関する方法論についてはその具体策を提言するに至っておらず、今後の課題である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION