日本財団 図書館


034-1.gif

発育期の生徒のクラブ活動時の運動強度は個々人の能力に応じて設定すべきであるが、それに答えるための現場で簡易に利用できる方法が少ない。本研究はストップウオッチ1つでできる簡易な運動強度設定法を開発する試みである。

現在、適切な運動強度を知る手がかりとし多段階漸増運動負荷中の血中乳酸濃度(LA)を基に、乳酸閾値や血中乳酸濃度が4mmol/lに相当する強度を指標とする方法が広く受け入れられている。一般的に、運動中の疲労の原因はこのLAの上昇によるものとされている。したがって、乳酸閾値の強度では運動持続が容易である。またこの強度が有酸素性能力を高める強度の閾値と考えられている。また理論的には運動中に乳酸の生成と除去のバランスが保たれ、LAが高くても継続的に上昇しなければかなり長時間運動を続けることが可能になる。その中でも乳酸定常の成立する最も高い運動強度(MaxLass)を超えると無酸素的解糖での供給エネルギーへの依存度が高くなり、質的に運動が変化すると考えられる2)。OBLAは理論的にはこの強度の指標である。

ところでMonodとScherrer15)は局所筋について数種の異なる強度で持続可能な時間と仕事量の間に直線関係が認められ、その傾きは疲労なしに持続し得るパワーであるとし、これをクリティカルパワー(CP)と名づけた。この極めて魅力的な概念を自転車運動4,7,9,10,16)、カヤック1)、水泳22)といった全身運動に応用できること、またLTやOBLAやMaxLassと高い相関関係がある13)との報告が相次いでいる。ランニングについては、20km/h までの速度であればエネルギー消費量は距離に比例するので、仕事量を距離に置き換えることが可能である。従ってランニングにCPの概念があてはまれば、持続時間をX軸、距離をY軸に取ると両者に直線関係が認められ、その傾きはクリティカル速度(CV)として表現できるはずである。すでに成人を対象にCPの概念をランニングにも適用できることが知られている3,6,8,11,12,17,18,19,)。またランニングのCVはMaxLassの指標になるとの報告がある19)。しかし、解糖能の低い子どもたちも成人同様にCVがMaxLassの指標になるか定かでない。

筆者たちはすでに中学生の長距離選手がOBLAを越える強い強度のトレーニングを大学生中長距離選手以上に負荷している現状を報告している20,21)が、その原因は、相対的な運動強度の設定が難しいために経験的にならざるを得ないためと考えている。もし、中学生にも走記録から求められるCVがMaxLassの指標になればそれを基準にした相対的強度を求めることが可能になる。そこで本研究では、成長期における中学生中長距離選手男女のCVとMaxLassとOBLAの相互関係を検討した。

 

研究方法

1. 被検者

被検者は、福岡市立Y中学校1、2年生の男女中長距離選手(男子5名、女子3名)8名とした。被検者の身体的特性を表1に示した。

 

2. 実験構成

1) グラウンド走による多段階漸増運動負荷試験

400mトラックでのグラウンド走による漸増運動負荷試験を次の要領で行った。初期速度を女子は140m/min、男子は160m/minとし、80m毎にラップ計測しながら一定速度で走るぺースメーカーの先導により4分間走行し、採血のための休息を挟み、20m/minずつランニング速度を漸増した。安静時、各負荷終了直後に、耳朶からの採血を行った。設定されたスピードで4分間走れなくなった時点で多段階漸増運動負荷試験を終了した。血中乳酸値とスピードとの関係から、3名の熟練者がそれぞれ各個人の乳酸閾値(LT)、4mmol/lに相当するスピード(OBLA)を目視により決定し、各平均値をその代表値とした。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION