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3年間のまとめ

平野裕一

 

「学校運動部活動のあり方に関する研究」というテーマから、運動開始時の生体の反応を採りあげて、運動部活動を安全に行うことに資する成果を上げようとした。以前から、子どもはウォーミングアップをせずに全力で瞬発的に動けるのに加齢にともないそれができなくなるということに興味があったので、初年度(1995年度)は『体育の授業における運動が短時間、全力運動の出力パワーに及ぼす影響‐年齢による相違‐』を検討した。しかし、事前の運動の定義が難しいと考え、それならば瞬発的な運動を開始するにあたっての生体の反応から、逆にどのような備えが必要になるのかを見いだそうとした。1996年度は『強度を漸増させる立ち幅跳びを行ったときの下肢筋群の放電様態の変化』と題して、複数の筋を動員する瞬発的な運動に先立って、徐々に運動強度を高める段階での筋活動レベルの変化に着目した。さらに、1997年度は『投球速度漸増にともなう投球腕上肢および上肢帯筋の活動の変化』と題して、活動レベルの変化に加えて、筋の合目的的な配列の変化についても検討しようとした。

 

1. 体育の授業における運動が短時間、全力運動の出力パワーに及ぼす影響−年齢による相違−(1995年度)

体育の授業における運動が瞬発的なパワー出力に及ぼす影響を、異なる年齢の生徒で比較した。ウォームアップの後、5回の両足での全力脚伸展運動と、最大下での9分間の自転車こぎが体育の授業における運動であった。授業前後に、中学1年生男子8名と高校2,3年生男子9名に全力で4.5秒間の自転車こぎをしてもらったところ、パワー出力値のピークは高校生でのみ授業後に高くなった。このことから、ここで行われた体育の授業における運動は、瞬発的なパワー出力にとっては中学1年生より高校2,3年生で効果的であったと示唆された。

 

2. 強度を漸増させる立ち幅跳びを行ったときの下肢筋群の放電様態の変化(1996年度)

強度を漸増させる立ち幅跳びを行ったときの大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋の活動変化を調べ、等速の足底屈運動における前脛骨筋と腓腹筋の活動と比較した。立ち幅跳びでは、強度の漸増にともなって主働筋群の活動が増加したが、拮抗筋である前脛骨筋の活動も増加した。しかも腓腹筋の活動と共同していた。この現象は足底屈運動においても観察されたことから、立ち幅跳びでみられた前脛骨筋の活動変化も共収縮によって関節が可動域を越えないようにする役と考えられた。

 

3. 投球速度漸増にともなう投球腕上肢および上肢帯筋の活動の変化(1997年度)

4名の野球選手に14m離れた的に徐々に速度を高めて投球してもらい、その時の投球腕上肢および上肢帯筋の活動を調べた。速度漸増レベルによる筋電図積分値と活動開始時刻の比較から、体幹に近い筋の活動レベルを高めることと、被検者によって筋は異なるものの主働筋の活動開始を早期化することによって投球速度を高めていると示唆された。

 

 

 

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