域を越えないようにする役と考えられている4)。本研究でも、BBに活動開始の早期化がみられた3名のうち2名についてはTRIの早期化が、またECRに早期化がみられた2名については両者ともにFCRの早期化が、それぞれみられた。これら拮抗筋が主働筋にともなって活動を早期化するのは、立ち幅跳びでみられた現象と同様で関節の可動域を維持するためと考えられる。
本研究で用いた動作は、強度の増加にともなって筋の活動レベルと配列の両者を変えられるものであったが、両者は独立でないために一方の原因に特定できない設定であった。また、脚の動きを制限して投げると40〜50%ホールスピードが低下する3)といわれている。からだ全体を使う動作でありながら上肢および上肢帯の筋の記録のみから解釈をするという制約もあった。さらに、被検者の主観で運動強度を高めたために中強度試行での強度の個人差が大きくなり、段階ごとに集団で解釈することができなかった。これらの限界を踏まえた上で、以下の2点を結果として得たと考えている。
?@ 上肢帯に近い筋ほど、強度による積分値の違いが顕著である傾向がみられた。すなわち、体幹に近い筋の活動レベルを高めて運動強度を高めている傾向にあった。
?A 個人によって筋は異なるものの、運動強度を高めるためには、投球動作の主働筋といわれる筋の活動開始を早期化し、その際には拮抗筋の早期化もともなう傾向にあった。
文献
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