(3) ムース化油に対する油処理剤の乳化性能調査
「ナホトカ」号事故の際に高粘度油用油処理剤D-1128を使用したところ、沈没位置付近の流出直後の油(5℃で約20,000cSt)には効果があったことが検証されている。しかし、海岸付近に漂着したムース化油(含水率約70%)に対して簡易試験法(ビーカー及び試験管による撹拌)で乳化性能を調査したがほとんど効果が無かったと言われている。また、通常型油処理剤についても上記と同様にムース化油の乳化性能試験を実施したが、いずれの油処理剤も、若干の茶褐色を示すが、。撹拌を止めると油塊はすぐ浮上し効果がなかった。
ムース化油に対し、油処理剤が効果がなかった理由としては、以下の理由が考えられる。
含水油は比重が高くなるのと、W/O型エマルジョンであることで表面張力が低下する。また、実際の海上では常に波をかぶるため、油塊表面には水膜が存在している。このような状況で通常型の油処理剤を使用した場合、油処理剤自体が水に乳化してしまう。たとえ油塊表面に乗ったとしてもW/O型であること、油層に浸透するまえに波をかぶり油処理剤自体が水に乳化してしまう。油処理剤は、一度水と乳化してしまうと、そのミセルは油処理剤の溶剤を核として、活性剤の親水基が外側向きに配向してしまうので油塊と接触しなくなる。
(4) まとめ
通常型油処理剤、高粘度油用油処理剤、航空機散布用油処理剤及び外国製油処理剤について、粘度変化及び散布量変化による乳化性能、及び、ムース化油に対する乳化性能を調査した。その結果をまとめると以下の通りである。
・ 通常型油処理剤の粘度に対する有効範囲は乳化率20%を基準とすれば、油処理剤により若干の性能の差はあるが、約3,000cSt前後ということが言える。
・ 各油処理剤とも粘度が高くなる程乳化性能が低下する傾向を示す。特に通常型油処理剤は粘度が3,000cStになると、乳化率はB重油での乳化率の約1/2〜1/3に減少する。
・ 高粘度油用油処理剤D-1128及び航空機散布用油処理剤S-5は、試験油動粘度10,000cStでも、それぞれ乳化率81%及び55%の高い乳化性能であり、通常型油処理剤と比べ数倍の高い性能を示した。
・ 動粘度3,000cStにおいて、油処理剤により若干の性能の差はあるが、通常型油処理剤は対油散布率20%を下回ると乳化率20%を維持できなかった。一方、高粘度油用油処理剤D-1128については、対油散布率約4%で乳化率20%を維持できた。
・ 外国製油処理剤については、実際は散布量が多い方が乳化しているにもかかわらず、散布量を減らすと乳化率の値が向上するという矛盾した結果となった。これは、乳化試験方法が閉鎖系であり、かつ、海水:油比が低いことが推察される。
・ ムース化油に対する油処理剤の乳化性能については、ムース化油に油処理剤が浸透しないこと、また、実際の海面では常に水膜が存在することから容易に油処理剤自体が海水に乳化するため、効果が著しく低下する。