舶査第52号に用いられている判定基準値との関係を調査するため、供試体を無作為に選定し各温度における静置時間10分、同60分、同120分の試験片1枚当たりの吸油量と単位重量当たりの吸油量の関係を図1-13に、また、試験片1枚当たりの吸油量と単位容積当たりの吸油量の関係を図1-14に示した。
供試体6(PP材)は、各供試体の中で一番軽い1.83gである。一方、供試体5(PP材)は、PP材中最も重い7.11gである。両者の15℃における試験片1枚当たりの吸油量と単位重量当たりの吸油量の最大吸着量(温度15℃−静置時間120分)は次のとおりである。
| | | 重量 | | (g/枚) | | (g/g) |
| 供試体5 | | 7.11g | | 96.2g | | 13.5g |
| 供試体6 | | 1.83g | | 49.3g | | 26.9g |
単位重量当たりの吸油量でみると、供試体6は供試体5の約2倍の吸油量となっているが、試験片1枚当たりの吸油量でみると逆に供試体5が供試体6の約2倍吸油している。
実海域では、少ない枚数でより多くの油を回収できる油吸着材が有効となる。一定量の油を回収する場合、供試体5は供試体6の半分の枚数で済む計算となり、作業、処理費用等からみると、有効なものと言える。
図1-14の試験片1枚当たりの吸油量と単位容積当たりの吸油量との関係についても上述と同様な結果となることから、油吸着材の性能は試験片1枚当たりの吸油量が、油吸着材の選択肢として必要なことと思われる。
(5) まとめ
本調査はC重油を供試油とし、かつ、十分な油層厚という条件であったが、高粘度油に対する各供試油吸着材の性能の一部を明らかにすることができた。本調査で明らかになった主な点は次のとおりである。
? 本調査に用いた試験方法は、吸油量にバラツキが多いことが判明した。この吸油量のバラツキの要因は、試験片の重量及び厚さの差による。
? 同一静置時間においては、粘度が低いほど吸油量が多くなる。
? 本調査の実験範囲の高粘度油では、全体的に30分程度で吸油量がほぼ平衡となる。
? PP製の油吸着材は、体積の大きい製品ほど高粘度油に対する吸油量が多い。
? 油吸着材の性能評価は、単位重量当たりの吸油量(g/g)及び単位容積当たりの吸油量(g/?3)で行うより、試験片1枚当たりの吸油量(g/枚)を用いた方がユーザーに対して適切な指針となる。
? 本調査で使用した古紙綿及び麻の吸油性能は、表面に用いられたPP材の組成によって左右される。
以上のようなことが本調査によって明らかにされたが、本調査はあくまで一定条件下における実験室レベルの結果である。実際の油防除作業においては、波浪、油層厚の変化、短い時間での回収等様々な要因が重なりあい、この調査の結果が実際の現場で直ちに適用できるというものではない。
このため、次年度においてはより実際の油防除作業に近い条件での試験方法を検討のうえ策定し、今年度供試体として用いた油吸着材や新しいタイプの油吸着材、油捕獲材等を選定し、性能試験を実施することにより吸油性能を把握することとする。
参考文献
1) 財団法人日本造船振興財団海洋環境技術研究所(現シップ・アンド・オーシャン財団)発行「海洋環境技術研究所技法 第3巻第1号」 P23 (1983)
2) 海洋資料センター(現日本海洋データセンター)編集、日本水路協会発行「海洋環境図 外洋編−北西太平洋?」(1978)