とが理解されず,弱い効力の薬を用いていることが多いため,痛みが解決していないのが日本の医療の現状といっても過言ではありません。
癌患者の痛みのすべてが癌病変によっておこっているわけではありません。70%の痛みは癌病変が直接原因となっていますが,30%は治療が原因で痛みがおこっていたり,全身衰弱に合併した褥創や便秘などによって痛みがおこっていたり,ときには五十肩による痛みのように癌にも癌治療にも関係のない痛みがおこっています。
これらを鑑別するのは医療側の役目ですが,患者さんにとっては原因が何であっても強い痛みが長くつづいているのは困ることなのです。よく,患者さんは痛みを訴えないという言葉を聞きますが,訴えさせていないのではないかと私は思っています。
患者さんは,一つひとつの症状を訴えて忙しそうな医師や看護婦をわずらわせてはいけないという気持ちをもっています。医師が問いかけて訴えを促したり,看護婦が患者さんに医師への訴え方を指導することが必要だと思います。
癌患者の痛みは身体的原因によっておこるのです。心が原因では身体的な痛みはおこりません。このことはよく理解しておいてください。
しかし,心の状態によって身体的な痛みの感じ方が強くなったり弱くなったりします。身体に原因があっておこる痛みが,心の状態に修飾されるのです。患者さんの感じている強さの痛みが治療の対象です。痛いという症状は,患者が感じている強さの痛みです。医師や看護婦が,この人の痛みはこうであろうと先どりして考えている痛みではありません。ここのところを間違えると,痛みの治療はうまくいかなくなります。
患者さんの痛みの訴えをよく聞いてみると,ほかにももっと軽い痛みがいくつかあることが多いのです。軽いほうの痛みはしばしば見逃されているのです。