講演?
座長 川田義男
(大阪小児科医会長)
演題 児童虐待予防と保育の役割
講師 小林美智子 (大阪府立母子保健総合医療センター成長発達科部長)
日本保育協会:平成9年度保育所保育・保健研修セミナー
児童虐待予防と保育の役割
大阪府立母子保健総合医療センター 成長発達科 小林美智子
【はじめに】
(1)子どもの虐待は、生命の危険や障害の可能性があり、成長発達を阻害し、情緒発達を著しく傷つける。
(2)子どもは自分からは援助を求められないため、子どもに関わる者が発見し介入しなければならない。
(3)子どもの生命が危険な場合や、在宅援助で改善しない場合には親子の分離が必要である。
(4)親は、この子の育児に困っているが、批判されることを恐れて援助を求められない。
(5)親への育児支援には、生活条件の改善や精神心理的癒しが必須である。
(6)どの機関も1機関のみで援助するのは不可能であり、関係機関ネットワークの構築が必要である。
【基本知識】
1.定義:
Kempe:親や保護者や世話する人によって引き起こされた、子どもの健康に有害なあらゆる状態
米国連邦法:18歳以下の児童に対する、子どもの健康や安全に責任ある大人による、身体的・心理的・性的虐待や放置によって、子どもの健康と安全が脅かされること。
2.分類:
身体的虐待:外傷の残る暴行、あるいは生命に危険ある暴行
ネグレクト:(養育の拒否・放置・怠慢)遺棄および衣食住や清潔さについての健康を損なう放置
性的虐待:近親姦、あるいは年長者による子どもの性の乱用
心理的虐待:以上を含まない、その他の極端な心理的外傷を与える行為
3.予後:
死亡、再発、障害、精神遅滞、犯罪、精神疾患(境界域、多重人格、摂食障害等)、虐待する親
知的問題1/3、学習障害1/2、貧弱な自己概念1/2、楽しみ遊び能力欠如、貧弱な自己愛、逸脱した対象関係、
4.発生条件:
(1)子ども時代に愛されてない親、(3)社会的孤立、
(2)生活ストレス、(4)親の意に添わぬ育てにくい子、
(1)親によくみられる特徴 (Steele)
1.未熟かつ依存的
2.社会的孤立
3.自信欠如
4.満足を求め、獲得するのが困難
5.子に対する歪んだ知覚、役割逆転
6.甘やかすことを怖れる
7.体罰を正しいと信じている
8.子の身になって要求を聞き、適切に対応する能力の障害(感情移入)
(2)生活のストレス
1.経済困窮
2.夫婦不和
3.育児負担
(Kempe)
(3)虐待されやすい子ども (Martin)
1.母子の愛着形成や初期の絆を妨げる因子
2.手が掛かる、満足を与えない子ども
3.両親の期待にあわない子ども
4.子どもの特定の発達の時期
5.虐待を招くような扇情的な子ども
親の育児の特徴:
(1)自分は自分の親よりも良い親になりたい
(2)子どもは自分を楽しませてくれる存在であってほしい(不幸な子ども時代の代償)
(3)親としての権利が尊重されるべき(自尊心の回復)
5.援助順序:社会的孤立解消→生活ストレス軽減→子の症状の軽減→親の育児改善や治療、「われわれの援助で世代間連鎖を断ち切ろう」