曲目
◇ベートーヴェン作曲/「エグモント」序曲 へ短調作品84
この序曲は、1809年から1810年にかけて作曲され「レオノーレ」「コリオラン」序曲と同じように極めて劇的な内容で、すじ道のとおった美しさをたたえ、飾り気のない悲壮感は聴く人を強い感激に巻き込まずにはいない。ベートーヴェンの序曲の中では卓越した傑作である。
* 序奏 ソステヌート・マ・ノン・トロッポ ヘ短調 3/2
激しい音の斉奏から弦の重々しい動機、木管の悲痛な動機、更に全合奏で繰り返し、弦の不安な鼓動を背景にヴァイオリンと木管が哀しげな小動機を連ねる。圧迫された民衆の苦脳をあらわしている。
* 主部 アレグロ ヘ短調 3/4
第1主題は弦が弱奏から進んで全合奏の最強奏に達する。第2主題は変イ長調、弦の強い律動を背景に木管の短い優しさをこめた調べがきれぎれに出て、全合奏の強奏で段落に入る。エグモントの強い性格や気高い献身的な行為と、深い愛情が表徴されている。
* 終結部 アレグロ・コン・ブリオ ヘ長調 4/4
前出の主題とは全く別の旋律による堂々たる終末である。死を通じて得た永遠の勝利というような崇高なものが激烈な響の渦の中から感得することができる。
◇ベートーヴェン作曲/ピアノ協奏曲 第4番 卜長調 作品58
1806年、35歳のとき完成したこの作品は、ベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲中、「古典的静謐さ」を最もよく備えている作品であり、内容の面から見ても最もすぐれた作品といわれている。たしかに豪華壮麗で聴きばえのする点では次の「皇帝」協奏曲の方が派手ではあるが、多くのベートーヴェンらしいユニークな構成と、緻密な作り、情感豊かな音楽の流れ、ということでは第4番はベートーヴェンの代表的な傑作といえる。
* 第1楽章 アレグロ・モデラート ト長調 4/4
協奏ふうソナタ形式。慣例を破って、第1主題がいきなりピアノで提示される。これに対し、第2主題はオーケストラに出る。短調のこの主題は、自然できわめて美しい。
* 第2楽章 アンダンテ・コン・モート ホ短調 2/4
短いがベートーヴェンの最もすぐれた緩徐楽章のひとつ。心の潤いと翳り、大いなる包容力を感じさせる。休みなく第3楽章に移る。
* 第3楽章 〈ロンド〉ヴィヴァーチェ ト長調 2/4
軽快で華麗なロンド主題と、パストラール風な副次旋律で構成されたフィナーレ。ロンド主題は反復されるたびに華やかさを加え、クライマックスに向かって徐々に気持ちを高めていく。