そして、国民が公務員に寄せる信頼感、期待感に応えようと、公務員はさらに士気・規律を高めようと努め、ついにはこれらの行動様式が行動規範にまで昇華したのではなかろうか。
つまり高い給与水準が士気・倫理観の高い公務員集団を生み出したのではなく、こうした公務員集団が国民の信頼感を得て、経済的発展をもたらし、高い給与水準を設定しても国民の納得が得られるようになったのである。もちろん、公務員の働きぶりに比較して不当に低い給与を支給しながら、高い規律・倫理観を求めることは無理があろう。しかし、高い給与水準が高い規律の公務員をもたらすものでないことは、シンガポールにあっても多くの下級公務員の給与水準は決して高くないが、これらの下級公務員も含めて士気・規律が高いことでも推定できる。国民からの信頼感、期待感を受けた公務員は、自らの職業を名誉あるものと感じ、給与等の勤務条件を含めた「報酬」全体が、士気・規律の高いこれら公務員の保持に十分であるからと考えられる。
このような観点から今回調査した途上国を始め多くの開発途上国の現状を鑑みるに、確かに公務に優秀な人材を集め、研修などにより人材を育成し、公務員の規律を高めることを人事政策として謳っているが、実態は思惑どおりには進んでいないようである。その結果として、公務・公務員は国民から信頼されていないようである。
公務員もこうした国民からの期待感の薄さを実感し、国民のために職務に精励するより、私利私欲を満たすために、公務を通じて給与以外の隠れた経済的利益を求めたり、公務以外の商売・アルバイトに精を出している例が少なくないように思われる。こうした公務員を多く含む公務員集団に対して、十分な給与水準を与えることに国民が納得するはずもなく、公務員の給与はかなり低い水準に設定されている。どうも国民は、公務員の給与は低いかもしれないが、現金収入が確保されているし、どうせ陰で給与以外にいろいろと役得があるのだから、と見ているようである。こうして以下のような悪循環に陥っているように思われる。
国民の公務員に対する不信感→公務員の給与水準抑制→公務員の士気の低下→さらなる公務員に対する不信感
2 信頼される公務・公務員を目指して
(1) 効率的な公務遂行
信頼される公務を構築するには、いかなる政策を採るかが最も重要な要素であるが、