5 公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)について
わが国の民法では、本人の意思能力喪失後も任意代理権は消滅しないものと解されるが、本人の判断能力が低下した後は、本人が自ら任意代理人を監督することはできず、権限濫用のおそれがあるため、実際には、判断能力低下後の事務に関する代理権をその低下前に授権する委任契約は、ほとんど利用されていない。
そこで、近年、任意代理人に対する公的機関の監督を制度化して、任意代理人の権利濫用の防止を制度的に保障することにより、そのような委任契約の利用を図るべきであるとする見解が主張されている。このような公的機関の監督を伴う任意代理制度は、英米法系諸国において最近導入された「継続的(持続的)代理権」制度に着想を得て提案されたものであり、法定の後見制度(「法定後見」制度)と対比して、「任意後見」制度と称されている。本研究会では、任意後見制度の法制化の要否について、積極・消極の両論の立場から議論がされたので、その採否について検討を要する。
仮に任意後見制度を法制化する場合の具体的な案としては、例えば、?実効的な監督機能を担保するため、家庭裁判所の選任した任意後見監督人が任意後見人を監督するものとする、?任意後見人の権限濫用を防止するため、監督の開始を任意後見人の代理権発生の要件(停止条件)とするとともに、監督開始の申立権者の範囲を広く規定する、?本人の意思・能力の審査等のため、任意後見契約を公正証書による要式行為とする等の様々な意見が出された。
6 その他
以上の論点以外にも、実体・手続きの両面について、多岐にわたる多数の論点の検討がされ、その議論の詳細が報告書に記載されている。