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第6章 期待される成果

 

6-1 試作からみる成果

立体目次試作の第1段階は,273項目について8つのくくり方(分野集団の形としては球状体: グローブ)でまとめてある。何を視点にもつかで,関連する分野の配置はさまざまに変わる。元来,研究分野(学問分野)というものは研究を進めるうえでの便宜上の区分け,つまり人為分類であるから,ある1分野が必ず対応する上位分類群に属するものではないことは自明である。

しかしながら,実際の研究遂行の場において,例えば大学院の学生は,自分の置かれた研究環境が示す分野特性に依存しきって研究を進めるのが通例であり,広く関連分野まで明んだ全体像を知っての行為ではない。このような場合,今回試作したような立体的分野配置の形やシナプスのつながり方をビジュアルに認識することができるならば,研究はより広域的なニュアンスを含みながら,正当な展開を図れることになる。

巨大で複雑な研究対象として位置づけられる地球とか海洋,あるいは生命体といったアイテムに関わる研究分野には,そうした広い視点での分野認識,具体的には,どのようなグローブ形成に関与しているかという座標の可視化という事態があると,格段の意義発見が期待されることになる。

分野は切り口,というセンスは,学問をかなり長く深く修めて初めて獲得されることが多い今日の分化した研究事情にあって,今回試作した程度の複雑さのグローブでも,かなり判り易い分野位置認識を即座に得られることになり,一応の成果を挙げたと自己評価できよう。

確立されている研究分野や,開拓されて間もない分野などの性格の違いなども,この立体分野配置図から読み取ることができよう。また,分野名もなく専門家も見当たらない,いわば未開拓分野が存在し得ることが示唆されるような,研究空白域の存在発見にも威力を発揮するものと期待される。

また,当試作の手法を,分野ではなく問題点と置きかえれば,その問題解決にはどのような分野協力や複合手法が必要かという見通しも立てることができ,問題解決のための対策模索にとつてかなり有効な手段になることも十分に考えられよう。

 

6-2 今後期待される成果

分野立体目次の本領は,言うまでもなく選ばれる分野項目の網羅度に大きく関わっている。今後,当研究の主たる方向の一つとしては,様々な切り口としてのグローブを形成することであり,さらにそれらのグローブ相互のリンケージを拡張して行くことである。

研究分野地図には,おそらく客観点な中心というものは存在しないであろう。それは,あたかも宇宙の広がりに似て,どこをとってもそれを中心と見ることが可能な世界である。このような学問認識は,超領域科学である海洋科学,地球科学,生命科学等においてとりわけ理解され易いであろう。

科学という広大な世界を,要素還元主義にのっとって細分化・尖鋭化・深化せしめた挙句に出来上った研究分野・学問分野は,それなりの歴史的必然性を有しているから,立体的分野配置図から,その経緯を読みとることが可能である筈である。と同時に,細分化され過ぎて隣接や近接の分野に対する認識を欠くことが多くなった近代の科学界において,不足しがちな全体像把握とか統合的視点の獲得,巨大システムの構図の発見といった状況を産み出す素材提供となることが大きく期待されよう。

自然科学と人文科学,歴史科学,そしてアートの世界,といった,一見リモートな分野の隔たりが,グローブのつくり方によっては思いもかけぬ,しかしある必然を持つつながりを有することを発見する可能性も少くない。学問分野は,二次元的に言えば連続スペクトルの中での人為的な区分作業であり,それが様々に立体的に交錯しているのが研究内容の実体であろうから,そのような複雑性の一つの理解に役立つことは間違いない。

今後の発展や精度向上が期待される側面として,定量的あるいは半定量的な分野間距離の測定,という問題を指摘することができる。分野間距離を測る方法には現在のところ全く確立されたものがないとしても,いくつかのアプローチを主体目次型分野配置図から見出すことが可能かもしれない。例えば特定の2つのエスタブリッシュ分野の間に,いくつ関連する分野が挟まれるか,という吟味の方法も有効かもしれない。今後の展開が期待されるところである。

今後,対象科学中心の研究分野だけでなく,手法の科学を軸として分野配置図も構築されるであろう。例えば,過去を学ぶ歴史科学関連の諸科学に共通する復元学についてこの作業を進めることはすぐにでも可能である。地質学,地史学,古生物学,古人類学,古環境学,古生態学,先史学,考古学,人類学,建築学,美術・工芸等々,一見脈絡のない既存分野を通して復元科学というグローブが構築され得ることは疑いない。結果として,学問分野間のバリヤーがとれ,共通認識が広まることは十分に期待されるところであろう。

 

 

 

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