常の稀薄溶液の理論を適用する範囲外であり,デバイ・ヒュッケルの理論の適用も十分ではない,ひと頃,これを解決するために等張溶液の取扱いが行われ,イオン強度一定の下における電解質溶液論の展開が行われた。
また溶存しているイオン種も単イオンではなく,種々の錯体を形成する場合も多く,またイオン対として表現される場合も多く,これらは錯体化学の分野とも密接な関係がある。さらに多くのイオンが実は単イオンではなく,有機配位子を配位した有機態であることが明らかになり,海水という溶液系の取扱いはいよいよ複雑になってきている。例えば,陸上生態系の森林から流出した,フルボ酸鉄,あるいはフミン酸鉄が沿岸の海藻類を育てるのに必須であることも明らかにされ,陸水と海洋水との合流の問題も環境問題として取り扱われるようになってきた。
6. 海洋における生物の活動
海洋における生命活動は地質時代には大気の組成を決めるのに重要な役割を果しており,現在でも光合成により大気中の二酸化炭素バランスに大きな寄与をしている。海洋中の鉄の存在が光合成に大きな因子をもつことが南極海の調査と南極の海洋水を用いる実験からも明らかとなった。海洋におけるクロロフィルの分布は海洋の一次生産のアクティビティを示す指標になるが,最近これらのデータの整理も行われている。
一次生産は,それ以後の海洋生物の生活に大きな問題であり,現在7000万t〜1億トンという年間の世界水産物の収量は今後の人口増加による人類のタンパク資源の確保といった点で重要である。水産資源,人工漁礁の開発など今後の課題は多い。
7. 海洋底質と年代学
大洋の深海底は1000年に1ミリといったようなゆっくりとした堆積過程を有しており,十数メートルの海底のコアを採取すれば数十万年の歴史をたどることができる。この底質の解析にはいろいろの方法があり,古地磁気の変化から地球磁場の逆転ということも明らかとなり,場所によっては花粉解析により地球の温暖化,寒冷化のサイクルを知ることもできる。海底の岩石の残留磁気の様子や年代測定などを併せて,海洋底拡大説や,プレートテクトニクス理論が生まれたことはよく知られているところである。
また海洋底に存在するマンガンノジュールは,鉄,マンガンに加えてニッケル,コバルトなどの金属を含み,資源として重要であるが,これらの採取に際しての海洋の汚濁の問題もあり,今後の課題である。