れた問題について、コメントを申し上げたいと思います。
資料の295頁におきまして、尾高先生は、貨幣賃金の記録が、制度的に保障された最低水準のみを登載したものであり、しかも、それが長期のタイムラグを経てから更新されるといっておられます。私は、午前中に報告しましたが、1986年に、政府が、故マルコス大統領からアキノ大統領に引き継がれたとき、我々は、労働力調査の適時性を高めるようにとの指示をうけました。稼得額(earning)データは除外されました。この期間になされたことは、賃金データについては、最低賃金とこれをCPI(消費者物価指数)によってデフレートしたものを使うということでありました。
ですから、提供されるのは、実質の賃金ではなく、実質の最低賃金でありました。そして、政治家の間においてさえも、賃金の設定は、企業の生産性に委ねられるものであり、企業と従業員の間の交渉で決められるべきであると認識されるようになりました。それがもう一つの理由になるかもしれません。
現在、現政権によって、稼得額データを制度化するよう、即ち、労働力調査に稼得額データを含めるようプレッシャーをかけられております。これで、尾高先生に対するご説明になったと思いますが。
議長:それでは、尾高先生に回答をお願いいたします。
尾高:私どものプロジェクトの成果が、どういうふうにして社会に還元されるか、が問題だということでありました。この点については、もちろん私どもとしてはできるだけの努力をするつもりでいます。それで、差し当たり、この報告書の最後の297頁の注記1にインターネットのアドレスが書いてありまして、私どものプロジェクトの成果に関心がおありの方は、そのインターネットのアドレスを開いて下さると、全部ではありませんけれども、プロジェクトの成果に関する情報が、そこに記されております。(http.//WWW.ier.hit-u.ac.jp/COE/)
それから、2番目のコメントは、推計を実行するに当たって、歴史的にかなり長い期間を扱いますので、その間に概念とか、定義とか、地理的な範囲とか、あるいは、また、統計の集め方、方法が違ってきた等の問題が生ずる。それは非常に問題だというご指摘でありました。これは、もちろんおっしゃる通りでありまして、もしかするとこの論文の中で論じておりますように、一定の基準を設けて、全体としてできるだけ矛盾がない、相互に比較可能な統計を作るという試み自体に無理がある、あるいは野心的すぎるということかもわかりません。
しかし、違うものを比較するということは、共通なものがあるということが暗黙の前提になっているわけですね。共通なものがなければ、比較しても始まらないわけですから。違っているといって議論するということは、同じものがあるということが前提になっているわけです。その同じものがあるという前提が、ここでは、基準を作る、あるいはスタンダーダイズを試みるということに対応いたします。何らかの形でこれをやらないことには、比較経済史とか、あるいは比較社会史とか