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グローバリゼーションによる影響のもう一つの問題として、所得分配に影響を与える労働市場の働きがあります。マレーシアを含む域内のほとんどの国々と同様に、工業化をするにしたがって、賃金部門(wage sector)のなかの労働人口の比率が増えてきております。労働市場の変化が、極めて大きな影響を所得分配のパターンや、また、貧困の発生率に与えるだろうということになります。過去において、産業化の性格が労働集約的なものであったために、産業開発の進展は、貧困発生率の減少と所得不平等の縮小に貢献しました。しかし、いまやマレーシアのような国々は、技術のはしごをまた一つのぼらなければなりません。熟練労働者の供給が限られているということが問題となっております。この供給の限定の故に、限られたデータによりますと、1990年代の所得格差の拡大をもたらした要素のひとつは、熟練労働者と非熟練労働者の賃金上昇の格差であるとみられます。

また、やはり残念なことですが、この国における賃金に関するデータがかなり限られていることであります。ですから、その意味で、労働市場がどのように動いているのかについて、よりよく、より深く理解するためには不十分だということであります。この点では、また、先ほども言いましたように、熟練労働力への需要の急速な拡大に対して、供給が増加しないことによって、熟練労働者の急速な賃金上昇がもたらされました。一方、近隣諸国からの移住労働者の流入は、賃金を最低水準に押さえてきました。ここでも、移住労働者についてのデータは適切に体系的には収集されてきておりません。実際、マレーシアにきている出稼ぎ労働者の総数は、ラフな推測でしかいえないということになります。最近の推計では、200から250万人となっております。マレーシアが2千百万人の人口であることからすれば、ずいぶん大きな数字であります。労働力の総数と比較して、実際、非常に大きな数字であります。また、質とかレベルとかどんな分野で彼らが働いているのかは、所得の不平等や貧困の状態の概要をよりよく捉えるのに重要であります。

マレーシアは、所得データの性格や質に関して誇りを持つことができますが、不平等の拡大という問題に対処する政策を立案するためのよい資料となるように、また、プロセスをよりよく理解するために、補うべき補助的なデータが必要であります。これは単にマレーシアだけではなく、世界のその他の国々でも経験していることであります。実際、国連貿易開発センターの最新の報告をみますと、不平等の拡大が、最近数年間引続き、世界でもっとも厄介な問題状況のひとつとなっているということであります。

それから、労働と雇用に関するデータの話になりますが、現在、マレーシアでは、「労働力調査」(Labour Force Survey,LFS)が毎年実施されていることは事実であります。 しかし、この調査を通じて情報を収集する主な目的は、労働力の構成とその分配、そして就業あるいは失業をとらえることであります。けれども、労働力の特長は、年齢、性別、民族、教育レベル、都市部にいるのか農村部にいるのか、産業と職業に限られております。先に述べましたように、マレーシアにおける所

 

 

 

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