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統計による格差の構造の把握:現状と方法論上の問題点

 

フィリピン国家統計局

局長 トーマス・P・アフリカ

[要 旨]

現代の特別な問題と課題の存在は、それらに関する統計がどれだけ、どのくらいの頻度で入手できるかという程度、すなわち、当該問題の統計的な把握可能性に何らか関連して決定される。性別による格差、所得の不平等、社会階層などは、20世紀も最後の四半世紀までは統計的に捉えられなかった問題の例だと言える。

情報技術によってコンピュータの能力はより高度化し、しかも比較的安価に利用できるようになったので、社会や経済における格差や変化が、より一層詳細に評価できるようになった。現象と期待の両方の数量化が、情報の入手可能性と利用可能性によって決められる。

貧困の推計には問題点が多い。雇用されているのは誰で、失業しているのは誰かといった従来の考え方は、農村地域では家族の絆や不完全就業、農業の季節性が一般的であり、また就労日や週間労働時間などの概念の定義があいまいなアジアではあまり意味がない。人口のかなりの部分が、国の成長に貢献できずにいる。その結果、アジア地域は、世界の人口の半分以上を占めているにもかかわらず、世界のGNPではわずか4分の1にしか達していない。

しかし、GNPは生活水準の尺度としては不十分だったため、HDI(人間開発指数)の開発につながり、それによってアジア太平洋地域諸国の相対的な生活水準を若干押し上げることになった。

発展途上国では、農村地帯からの人口移動による都市化が起こっており、これには工業化を伴う場合もあれば、そうでない場合もある。いずれの場合も都市部の雇用状況を悪化させ、さらには住宅事情にも悪影響を及ぼしている。

アジア太平洋地域の多くの国において、性別による格差がかなり顕著である。文字の読めない人々のうち半分から4分の3を女性が占め、南アジアでは、女性の識字率が男性のわずか半分になっている。女性はまた男性に比べて教育機会が少なく、とりわけ南アジアではそれがひどい。若者の割合が高いこともさらに社会的な問題を複雑にしている。

国間の格差を比較する場合に、概念や手法についても比べることが必要にある。一般的な動向やパターンについては調べることができるが、特定の国の状況についてその程度や性質を比較する場合には、概念や手法によって内容が大きく変化することがある。

フィリピンの場合をみてみよう。貧困の発生率は改善されてきているが、貧困者の数がいまだに問題である。しかし、他の近隣諸国と比較してみると、食料バスケットの構成が穀物成分の点で異なるので、その相対的な大きさに影響が出る。都市化も、人口の移動や地域の再分類によって増加

 

 

 

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