B DFNAll家系におけるミオシンV?UIA遺伝子変異の検索
SSCPの結果,エクソン22において難聴者に変異を示すバンドを認めた。家系内の健常者や,血縁のない健常者60人のgenomic DNAから増幅したPCR産物のSSCPでは変異を示すバンドを認めなかった。難聴者および健常者のgenomic DNAから増幅したエクソン22のPCR産物をサブクローニングし,塩基配列を解析した結果を図5に示す。難聴者のクローンにin frameの9塩基対欠失を認め,その結果アラニン,リジン,リジンの3つのアミノ酸が欠失することが確認された(A886-K887-K888)4)。DFNAll家系の難聴者8人全員にこの変異のヘテロ接合を認めたが,健常者では変異を認めなかった。
IV 考察
DFNAll家系の難聴は、10歳代に発症する両側性進行性感音難聴で、オージオグラムは対称性で高音漸傾型または水平型を示した。10歳代に発症するため就学時健診では難聴を認めず、中学頃より難聴が明らかとなり学校生活に不便を感じるようになることから、若年患者の将来への不安は次第に大きくなり、特に将来の職業選択に際しては、難聴の進行程度が問題となる。しかし難聴の進行が予測できれば、ある程度職業選択の幅を決めることができる。今回の検討では難聴の進行速度は比較的緩徐であり、家系内の大多数が中等度難聴であった。この結果は家系内難聴者の人生設計に有用な情報を提供した。また10歳代に発症する難聴の存在は、就学時健診のみの難聴スクリーニングでは遺伝性難聴の早期発見は不十分であることを示唆する結果であり、比較的晩発発症の難聴をいかにして早期発見するかは、今後検討されるべき課題となった。
また聴覚精密検査の結果、障害部位として内耳障害が示唆された。後述するとおり、DFNAllの原因遺伝子はミオシンV?UA遺伝子であるが、この遺伝子は内耳、特に有毛細胞に発現していることが確認されている。この事実が今回の検討により臨床的に裏付けられたと考えられる。