このため、コンテナ輸送量の増加も世界平均増加率の倍近い伸びを示し、図表7-21(次ページ)のようにNIES4カ国地域合計で88年には米国のコンテナ輸送量を追い越している。
注1 土井正幸「東・東南アジアにおける経済発展と主要コンテナ中継輸送」、『日本港湾経済学界年報』による。
?A日本企業の進出によるASEAN諸国の経済成長と輸送量増加
この地域における80年代後半の最大の変化は、経済成長の波のNIESからASEAN諸国への南進である。89年に入り経済成長をやや減速させたNIES諸国に対して、図表7-1に示すように2桁成長を誇るタイをはじめASEAN諸国の経済成長が加速され、成長率でNIESと立場を入れ替えた。先に、円高と内需主導型成長を迫られた日本ではあるが、これに速やかに対応して、対日・対米輸出を拡大して高度成長を果たしたNIESが、今度は、韓国・台湾を中心に通貨切上げと賃金上昇をやむなくされ、やはり輸出主導型高成長から内需主導型経済への転換を進めつつあるとみられる。NIESに代わって輸出主導型工業化の急成長を受け継いだASEAN経済の背景には、通貨切上げにより国内生産の競争力を失った日本やNIESの企業の海外進出、すなわち対外直接投資がある2。その大きなひとつの契機が85年9月のプラザ合意を受けた円高で、図表7-3(145ページ)のようにその後1〜2年をおいて、もはや労働集約型産業よりも加工組立型産業を中心にした日本からの対ASEAN直接投資が集中した。このような輸出主導型産業を中心とするASEANの経済成長を受けて、80年代後半にこの地域のコンテナ輸送量が驚異的な伸びを示していることが、図表7-2からわかる。
注2 日本貿易振興会『世界と日本の海外直接投資』による。
?B中国の経済成長と輸送量増加
前述した東・東南アジアの経済構造は、90年代に入って早くもまた新たな変化をみせ始めている。ASEANの経済成長も80年代後半の勢いは鈍り、日本からの直接投資も91年から減少に転じており、欧米・NIESのほとんどの諸国も同様にASEANへの直接投資に慎重姿勢をみせ始めている。この要因としてはASEAN側で指摘されるのは、賃金上昇、人材確保の困難、インフラの未整備、物価高騰などが考えられる。
そのような背景のなかで、改革開放政策のもとで直接投資の受入れを進めている中国は、89年の天安門事件で一時停滞したものの、90年以降、香港・台湾・日本・米国を中心に直接投資が増加の傾向にある。中国のなかでも最初に経済の急成長を遂げたのが経済特別区などの制度にも支えられた広東省を中心とする華南経済圏で、以降は中国沿岸部にも徐々に波及しつつあり、コンテナ輸送需要を増加させている。港湾に恵まれない中国のこうした経済発展に伴い、華南経済圏の外港たる香港港の取扱量が急増したとともに、神戸港や釜山港での中国を仕出し・仕向地とするコンテナ中継輸送が急増した。同様の輸出主導型工業化による経済発展は、今後、中長期的には、ベトナム、ミャンマーなどの経済開放を志向する国々にも予想される。
2)製品輸入需要の増加
上述のようなアジア諸国のダイナミックな経済成長の動きの重要な要素として、主要先進国およびアジアNIES諸国、特に日本からの企業の直接投資があげられる。そのさらなる遠因は、円高圧力をきっかけとした日本企業の激しい国際競争への対応がある。わが国企業の海外進出は、一方では国内の産業の空洞化問題を抱えることになる。事実、図表7-3に示したように、日本企業では、繊維、一般電機、精密機械などの製造部門の進出が激しい。最近では、鉄鋼や非鉄金属などの素材型産業についても途上国の追上げが激しく、国内では、高付加価値商品や研究・開発部門を中心に機能を見直し、残りは海外立地など再配置を迫られている。