2. 家電産業の動向と今後の課題
(1) 家電産業の定義と現状
1) 家電産業とは4
家電は主に電気を動力、熱、光などのエネルギー源として利用する民生用電気機器と、主に電子の動きに着目し情報伝達に利用する民生用電子機器に大別される。前者はエアコン、洗濯機、冷蔵庫などがあり「白モノ」とも呼ばれ、後者はカラーテレビ、VTR、ステレオなどで「AV機器」とも呼ばれる。家電産業は時代ごとに主役交代を繰り返しながらわが国の高度経済成長の一翼を担ってきた。
わが国の家電産業は、大手完成品メーカーを頂点としてその傘下に一次、二次、三次の下請部品メーカーが広がる典型的なピラミッド型の産業構造をなしている。親企業と下請企業には相互依存関係があり、各階層間における下請関係は強い。
家電の国内市場は集中度が極めて高く寡占的といえる。エアコン、洗濯機など白モノでは総合電機メーカー3社および家電メーカー3社でシェアの大半を占める。また、AV機器のうちカラーテレビ、VTRでは、上記に2社を加えた合計8社で100%近いシェアとなっている。
注4 家電産業、とくにカラーテレビにおける需給、技術展開、販売体制など、国際競争の視点から詳しいものとしては、武田晴人『日本産業発展のダイナミズム』の第4章が詳しい。
2) 現状5
わが国の電子・電機の国内生産は、バブル崩壊後の内需の落ち込み、円高の進展による海外生産シフトの影響で、1992年度、93年度とマイナス成長が続いたが、94年度以降は再びプラスに転じ、95年度の国内生産額は29兆1,179億円となった。需給の内訳をみると、輸出は、93年度に前年度比マイナスとなったものの、その後は堅調に推移し、95年度には13兆4,009億円と92年度のピーク時を上回る水準に達している。さらに、内需も近年の情報機器関連需要に牽引され、すでに91年度ピーク時のレベルに回復している。しかし、この間輸入が急増したため、国内生産はピーク時であった91年度の約93%の水準にとどまっている(図表2-10、2-11、次ページ)。
最近の需給動向の特徴としては、次の4点があげられる。
第1にカラーテレビ、VTRなどのAV機器の国内生産が、円高などの影響によるアジアヘの海外生産シフトにより激減している点である6。90年度に4兆2,500億円であった民生用電子機器の国内生産は、95年度には2兆3,200億円まで落ち込んでいる。もはやカラーテレビの海外生産比率は8割に達し、日系メーカーの海外生産拠点からの逆輸入の増加によリカラーテレビの国内需要に占める輸入品の割合も7割に達している。
注5 ここでは全国的な家電産業の動向を整理するのにとどまっているが、さらに一歩踏み込んで国際的な構造調整要因が地域産業へどのような影響を与えているか、またこれに対してどう対応しているのかについて具体的な議論を行なっているのが、関満博・西澤正樹編『地域産業時代の政策』である。
注6 アジアヘの海外生産シフトに関連して、日本の対アジア投資について理論的・実証的な考察を行なっているのが、青木健・馬田啓一編『日本企業と直接投資』である。アジアヘの直接投資がわが国産業空洞化につながるという直線的な論議に対して、実態整理を行ない疑問を呈していることも注目する。
第2に産業用電子機器需要が急増している点である。産業用電子の需要を支えているのはパソコンと移動体通信機器である。パソコン市場は、ハード・ソフト両面での価格・性能比の向上、通信サービスの充実などを背景に世界各国で需要が急増している。わが国でもDOS/V機と呼ばれるIBM互換機の登場とそれに続くWindowsの普及を契機にパソコン普及に拍車がかかり、95年度パソコンの国内出荷は570万台と前年比7割以上の増加となった。一方、移動体通信市場では、携帯電話の加入者数が増加の一途をたどっている。その勢いは当初の予想をはるかに上回り、96年度中にも普及率は20%弱に達する勢いである。
第3に半導体、液晶等情報関連機器のキーデバイス生産の拡大である。とくに半導体生産は、96年度には需給バランスの悪化による市況の暴落が原因で停滞したものの、電子・電機産業の国内生産の大きな牽引力となっている。この背景には、先に述べたパソコンをはじめとする情報関連機器需要の世界的な拡大による半導体需要の急増と、半導体市場における日系メーカーの競争力の高さがある。
第4に全般的な輸入の急増である。95年度の電子・電機産業の輸入総額は前年度比52%増と高い伸びを示した。機種別には、前述したAV機器の逆輸入増以外にも、パソコンやパソコンの心臓部であるMPUに代表されるような半導体の輸入増も大きく寄与している。