という日常的な恐怖に晒されていたことをフィクションの部分を織り混ぜて撮られている。
評論家の李道明(リー・ダウミン)は映画における台湾人のアイデンティティを探求しているが、監督としても『殺戮戦場的邊縁』(1986)、『人民的聲音』(1991)、『排灣人撤古流』(1994)を撮り、柳町光男監督の『旅するパオジャンフー』(1995)の製作にも参加している。台湾の先住少数民族である高砂族に追った作品も多い。胡台麗監督は『神祖之靈歸来:排灣族五年祭』(1984)、『矮人祭之歌』(1988)、『蘭嶼觀點』(1993)などを連作している。
日本時代に目を向けた作品もある。洪佩英(ホン・ペイイン)監督の『我在南洋』(1993)は、英題の「台湾の帝国軍人」が示すように、日本統治時代に日本軍の軍人となった台湾人たちの過去と現在を追った作品である。
劇映画の監督である徐小明(シュ・シャオミン)監督は、東南アジアから台湾に出稼ぎにやってきた低賃金労働者たちの姿を『望郷』(1997)で撮り上げた。
呉乙峰(ウー・イフォン)監督の『陳才根と隣人たち(陳才根的鄰人們)』(1996)は、〈外省人〉の矛盾を取り上げた作品である。呉乙峰は〈全景映像工作室〉を創設し、『月の子供たち(月亮的小孩)』(1990)の発表以降、行政院(政府)の支援を受けながら台湾各地で作家養成に取り組んでいる。
最近の動きとしては、黄明川(ホアン・ミンチェン)監督による『台湾文学家紀事』の製作が挙げられる。日本占領時代から現在までの台湾人作家についての記録である。また、タイヤル族が抗日武装蜂起した霧社事件、かつて甲子園大会で準決勝まで勝ち進んだ台湾代表嘉義農林高校などをテーマとした映画製作が予定されているという。
台湾のドキュメンタリーには、台湾の近・現代史を主体的に掘り下げ、台湾民衆のアイデンティティを描こうとするうねりが感じられる。そして1998年秋の第一回開催を目指して台湾国際ドキュメンタリー映画祭(台湾国際紀録片雙年展)も計画されている。
(了)