日本財団 図書館


 

ってしまった。でも私は本当に「徴婚啓事(結婚相手募集広告)」を新聞に掲載したのです。台湾で最大の新聞に出したのです。

―――どの新聞ですか。

陳:中国時報です。そして、20部ほどその新聞を買いました。撮影の間に破損してしまった場合に備えて。常にその新聞があるようにしておきました。だから、たくさんあるはずです。ただ、どこにあるかを私は知らない。

―――ここは陳國富さん御自身のオフィスだというのに、あなたは何がどこにあるかを知らないんですね。ところで私は本屋で同名の小説を見つけました。何かこの作品と関係ありますか。

陳:ありません。あれは女流作家の記録です。ある時期に結婚したかった女流作家が、そのことにとても不安を感じ、実験を試みるのです。彼女は、私がやったように、新聞広告を出しました。この女流作家は私の友人です。私は彼女が会った男と同じ人を使ったので、彼女の承諾を得なければなりませんでした。私はこの本の映画化の権利を買いました。しかし、内容はまったく異なっており、小説とは関係ありません。

―――オリジナルなコンセプトはあの本から着想したが、内容は違うということですね。

陳:そのとおりです。私は、あの本を脚色しようとしましたが、それは不可能でした。なぜなら、本の舞台は、ある特定の時期でなくてはならないからです。そして主人公の作家の身に起こることです。もしこの本をそのまま映画化するのであれば、私は女流作家も創造しなければなりませんでした。劉若英は作家ではありません。彼女はまったく原作者には似ていない。これが第一の問題でした。二番目の問題は、もし原作を基にするのであれば、私は男たちとの会話を書かなければなりません。しかしこれは不可能です。とても退屈な作業になるでしょう。原作に登場する男たちは、私の映画の男たちと同様に実際の人々です。ですから私の戦略は原作そのものでなく、原作のアイデア、その精神だけを翻案しようというものでした。

―――劉若英の職業設定は……。

陳:医者です。しかし、彼女は男たちに医者だとは決して告げません。私は何かドラマが、そしてその理由が欲しかったのです。彼女は、眼科医だということを男たちに話したくない理由を持っていました。ただ、何もないところから、彼女が眼科医だと創ったわけではありません。私はたくさんのリサーチをしました。女医や眼科医のリサーチを。自分の職業を明かしたくない理由についても。多くの女医が、習慣として自分の職業を明かさないということを見てきました。なぜか分かりますか。彼女らは、とても恥ずかしがるのです。その理由はとても奇異に思えます。今の台湾ではまだ、女医であることは疎外感を感じる職業なのです。女医とは高い地位にあり、その女性は猛烈に勉強し高収入があることになります。

―――それに男性がプレッシャーを感じるのですね。

陳:そうです。特に結婚となるとなおさらです。女医の99%はやはり医者と結婚しています。彼女らはこの事実を喜んではいませんが、どうすることもできないのです。閉じられたとても狭い世界に生きています。

―――でも、なぜヒロインが女性作家だとまずいのでしょうか。

陳:私はこの映画を女流作家の話にはしたくなかった。私は作家という職業をリアルなものに思うことができなかった。作家という職業自体が“反射の反射”だからです。複雑すぎるのです。鏡のようなものです。私にとってこの話は、愛と結婚なのです。これは愛と結婚の反射であってはならない。愛と結婚そのものであるべきなのです。映画の中心テーマが書くことになるのは嫌だったのです。今のところ、私はそれには興味が湧きません。劉若英の職業を決める段になって突然、医者か弁護士か行政の管理職ということを思いつきました。これらの職業にある人は、まずたいへん忙しく、次にその職業サークルが閉じられており、何年もの間勉強しなくてはならず、結婚するには困難が多いのです。その中で主人公の職業が眼科医になったのは偶然です。眼科医の妻を持つ俳優がこの映画に出演していました。私は彼女と何度も話をしました。

 

独りでいること ふたりでいること

 

―――歌手や俳優という職業を選ばなかったのはなぜですか。ドキュメンタリー的方法ということであれば、その方が劉若英自身に近いと思うのですが。

陳:そこまで近いと、私にとっては面白くないのです。私は、彼女自身にとても近いものを求めてはいましたが、それは内面であって、外見ではないのです。このことは、他の俳優にも言えます。前にも言いましたが、面接に来た男の中で、10人ほどはプロの俳優、アーティストでした。たとえば、ロックスターの伍佰(★5)も出ています。彼の趣味はピンボール・マシーンです。ですから映画の中でも、彼は劉若英をピンボールに誘います。台北に残っているたったひとつのピンボール・マシンです。彼は楽器を弾きます。このように、自分自身にあまり近すぎはしないが、充分近い人物を演じさせました。また、自分を演じている俳優もいます。人々は彼を俳優だと見破ってしまうので、彼は変装しています。

―――その俳優はだれですか。

陳:彼は侯孝賢の『風櫃の少年』の主役です。鈕承澤(★6)です。

―――あなたの前作『我的美麗與衰愁』のプロデューサーでもあった人ですね。でもこの変装だと、そうは判りませんでした。

陳:『青春神話』の陳昭榮(★7)も出ています。彼の趣味は海老を釣ることです。海老釣りは、台湾では人気があります。その場で食べることができます。

―――劉若英がそれぞれの男と面談したとき、好きな趣味などを聞いていったのですか。

陳:たまには。でもいつもではありません。人によります。趣味の話などまったく触れなかった人たちもいます。

―――現場のスチルを見る限り、一方で彼女が独りでいる場面

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION