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交わって流れて

白崎映美 SHIRASAKI EMI ――――― (上々颱風ヴォーカル)

 

商店街の道ばたや神社の境内、コンサートホール、畑のまん中。あらゆる場所に歌と踊りと音楽を持って私達は出かける。何ヶ月も前からチケットを買って見に来てくれる若者。通りすがりにおもしろそうだと足を止めてくれる買い物途中のおばちゃん。いろんなカタチ、いろんな場所、いろんな人達の前で、コンサートは開かれる。沖縄から北海道、マレーシア、パリ、シンガポール。青年団の集まりや、結婚式、闘牛場、魚市場。

 

チパユン村は、インドネシア、ジャカルタから約2時間。舗装されていないでこぼこ道を車で揺られてやっと着く。熱帯の、大きな葉を持つ背の高い木々の間からあふれるまぶしい太陽の下、子供が5・6人、一列に並んでこっちを見ている。

「スラマシヤン」(こんにちわ)

「ナマ・サヤ・エミ」(私はエミといいます。)

その中の一人の女の子、4・5才位か、私をじっと見つめる、かわいい黒い大きな目。汚れた、小っちゃいワンピースからかっ色の細い手足。背中には汚れたさらしでくくりつけられた小さな弟が、すやすや眠っている。

夕方、コンサートは始まる。屋根付き、コンクリートのたたきが今日の即席会場だ。あの子が来た。背中には弟はいなくて、かわりにおばあちゃんと手をつないで、今日のこのコンサートのために、二人共、ぴかぴかの一張羅で。リハーサルの音にかき消されながらとぎれとぎれに声が聞こえる。私の名前を呼んでいる。「エミ。エミ。」

 

東北の小さな地下のライブハウス。空気が湿って、いかにもロックやる場所ですって感じの、イキがってるようないかついような場所。今日の会場だ。コンサートが始まると同時に、この場所に似つかわしく、空気は熱っぽくなり、お客さんも踊ったり歓声を上げたりしている。満員の客席の一番前、歌う私の目の前におじいさんが座っている。だまって座っている。私は湧いてくる疑問をこらえ切れずに聞いてしまった。

「あのー、今日はどうしてここへ?」

「息子が、いいって言うもんですから。」

おじいさんは、楽しいと言った。年は76だと言った時、聞いていたお客さんが、どっと湧いて拍手がきた。隣を見ると、40過ぎと思われる息子が、照れて笑っていた。私はおもわず二人の手をぎゅうと握りしめてしまった。

 

 

 

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