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ご挨拶

福田逸

 

本日はようこそ三百人劇場へお越し頂きありがとうございます。

昨年からスタートしたこの企画も早や一年。今年もそれぞれに特色あるチームを招いての開催に漕ぎつけることができ、関係者一同安堵の胸をなで下しています。

洗練された俳優技術を駆使し繰り広げられる「家族」の世界。それぞれの国がおかれた状況がつくりだす家族というイメージの微妙な、しかし明らかな相違への驚き、これが昨年、中国、アメリカ、韓国、そして日本から沖縄に参加して頂き開催された第一回目終了時の率直な感想でした。

中国の若い世代に芽生える新しい家庭の悩みは、国家の体制を越え我々にも共通する問題として表現されました。一方、韓国は作者の年代を反映し、第二次大戦とその結果としての分断国家が家族に与える影が大きなテーマとなっていましたが、これと殆ど相似形ともいえる影が、戦争によって定められた運命に翻弄される女を描いた沖縄の舞台にも色濃く映し出されていました。アメリカの作品は現代における家族の崩壊、その最先端にある試験管ベビーを題材に自分探しがテーマとなっていました。各国それぞれ異なった内容の中からそれぞれの「家族」が浮き彫りにされ、その結果見えてきたものは家族の求心力を願う声だったように思います。異なる作品の中から生まれる普遍的な声。手探りで始めたこの国際交流の意味を垣間見ることができたのではないかと自負しています。

さて、本年は英国、南アフリカ、マレーシアそして日本からは我々昴が参加します。それぞれがどのような舞台を見せてくれるかは見てのお楽しみということにしておきましょう。英国からの参加はウェスト・ヨークシャー・プレイハウス。演出担当の芸術監督ジュード・ケリーによって英国有数の劇団となり、海外交流も盛んに行っております。ロンドンにばかり目を向けがちな日本の演劇界に英国の新たな一面をお見せできれば幸いです。南アフリカは我々にとって遠い存在でありますが、アパルトヘイトと、その後の黒人政権が実現した後の苦悩を背景に我々とは全く異なった環境に生きる人々が抱える問題が民族色豊かに表現されるのではないかと期待しています。マレーシアは同じアジアの国ではありますが、日本のような単一民族による国家ではなく、その歴史の複雑さが生み出す家族、あるいは人間に対する固有の捉え方が舞台に表われることと思います。そして我々昴は、文学と家族の狭間で苦しむ石川啄木の姿を描きます。この四作品が、各国それぞれが現在おかれた家族の問題を提起すると共に、個別のテーマの底に流れる普遍的な人間の声をお聞かせ出来るものと信じております。

最後になりましたが、昨年に引き続き本企画を後援して頂きました日本財団、及び日本芸術文化振興会に深甚なる感謝の意を表したいと存じます。また、本日お越し下さいましたお客様方にも心より感謝申し上げます。  (現代演劇協会 理事長)

 

 

 

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