コオイムシにおいては餌条件の悪化は、かえって飛翔を抑制する方向に働くと考えられる。
4. 飛び立ちの時刻
1997年7〜8月および10月の実験において、本種の成虫が飛翔開始前に木の棒に登った時刻を上陸時刻とし、飛び立ちの時刻とともにビデオテープにより解析した。その結果、7〜8月の実験では、上陸時刻の平均は11時頃、飛び立ちの時刻の平均は12時15分頃であった。これに対して、10月の実験では、上陸時刻の平均は12時19分、飛び立ちの時刻の平均は13時半頃であり、7〜8月の実験より約1時間ずつ遅かった。また、上陸と飛び立ち時の平均気温も、7〜8月の実験では約31℃、10月では約22℃と、約10℃の差があった。ゾウムシの一種Rhynchophorus cruentatusでは、高温が飛翔行動を誘起することが知られているが(Weissling,1994)、本種の飛び立ちに一定の温度条件を必要とすることはないと考えられる。
このように、7〜8月と10月の実験においては上陸や飛び立ちの時刻や気温に特に共通性はないように思われた。しかし、飛び立ちの時刻を日の出からの時間に換算すると、上陸時刻は7〜8月、10月ともに約6時間後、飛び立ちの時刻は約7時間半後となり、有意差がなくなった(t検定によりP<0.05)。すなわち、本種の飛翔タイミングは日の出からの経過時間によって決定されていると考えられた。
また、上陸後、本種でもタガメなどで見られるような体を震わせるウォーミングアップが観察されるが、この継続時間も気温に関係なく平均70分と一定であった。これらのことから、本種の飛翔行動は体内時計にもとづく概日リズム(サーカディアンリズム)によって支配されていると推定される。