(1)隣家との間の樹木により延焼を免れた家
この家の北隣から一面の焼失区域、即ち、ここが焼け止まりである。焼失した隣の屋敷との境には高さ25mほどのCoast Redwood(Sequoia sempervirens)が2本技を広げている。しかし、これらの木の黒焦げの部分は根元の極く僅かであって、炎に触れた形跡は少ない。この樹が衝立となったため、家屋は外壁は勿論最も火に弱い窓枠(木製サッシ)にも全く被害を受けていない。周辺の地面の状況から判断して消防による散水の形跡はなかったので、この家にとってこの樹木の延焼遮断効果は大変大きかったと云うことになる。
Redwoodは、耐火力は際だって強いものでもないが、この例のように、葉が変色する程の熱を受けても炎上せずその形状を留めた場合には、衝立となってその遮熱効果をもたらす。更に、この葉は地上に落ちても水分含有量が多く、従って火炎が地上を走る速度を抑制する力がある。なお、この2本のRedwoodが当家のものではなく、焼失した隣家のものであったことは、いささか皮肉であった。
(2)前面の谷の樹木と背後の山の樹林により焼失を免れた家
周囲一面焼け野原の中に家が一軒残っていて驚かされる。この家は、斜面に沿って建てられているため、道路から階段を上がり2階が入口になっている。この道路に面した階段の手摺と同じく道路に近い窓の手摺は焼け落ちており、全くの無傷というわけではない。
しかし、壁面(塗壁)も屋根も焦げてはいなかった。
この家の北は道路であり、その先は谷となって落ち込んでいる。この谷を見ると、道路側(家から近い側)の斜面の樹は葉が変色した程度であったが、向側の樹は根元から焦げ、葉も落ちている。この谷の火炎の流れが向側(即ち、家から遠い側)の斜面で激しかったことが伺われる。火は谷に沿って燃えひろがった後、谷の向側の北斜面を上ったわけで、谷の南側にあるこの道路は越えてはいない。また、向側斜面の家屋や下草、樹木などの炎上に伴う輻射熱や熱気流は、道路側斜面の樹木(葉変色のみで、黒焦げや炎上はしていない)によって通られ、この家屋には及ばなかったのではなかろうか。
道路から南側は比較的緩い斜面(北斜面)で、家はこの最下部にある。南はMontorey Pine(Pinus radiata)の林が接している。樹高はさして高くは無いが、地形の高さが加わって20mを越える松林の如きものである。これらの樹は、葉が変色したのみであった。
東と西は、疎林であったが、下草は青々とした緑のままであり、火炎が地表を走った形跡はなかった。この様に、この家は、近くの地面に燃える物がなかったことと、南北の樹林が熱を遣ったことにより炎上を免れたものと考えられる。
(3)斜面下の樹木により延焼を免れた家
この家のあたりが焼失した南側の地区(Rock Ridge地区)の中では、一番高い位置にある。