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3)オークランド大火

1991年10月19日、米国西海岸オークランド市の東部丘陵地で発生したボヤが、米国史上第二という大火災に拡大した。オークランドヒル火災である。このボヤは、バーベキューの火が斜面の枯草に移ったもので、夜になる前に鎮火し(たと思い)、消防士たちは全員山を下りてしまった。しかし、翌20日の朝、くすぶっていた火が息を吹き返し、市民からの通報で消防が駆けつけたときは既に遅く、火は山を吹き下りてくる乾燥した熱い東風に煽られて拡大し、遂には消防活動の及ばぬほどの大火となり、760haという広大な地域を灰塵と化してしまったのである。

 

被害の概要: 死者 26名、負傷者 150名、焼失家屋 2843棟、損害家屋 193棟、焼失集合住宅 433戸、家屋の損害額 15億3700万ドル

 

被災地一帯は、住宅地になる前には牧場経営者が所有していた。この火事では、燃え上がって火の粉の材料に成り、延焼拡大の要因の一つと指摘されたユーカリ(Eucalyptus globulus)やモントレーパイン(Pinus radiata)は、以前からの自生種ではなく、乾燥した土地に耐えて大きくなる適性を買われて、人工的に植えられたものである。住宅地になっても、一戸当たりの敷地面積が600平方米程度あったため、既存の樹木はかなり残されていたようである。

焼失地域は、大きな谷で南北に分断されており、片根13車線のFreeway24号がほほ東西に走っている。通常ならば十分焼止まりとなり得るこの広幅員の道路を、火は難なく飛び越えてしまった。飛火である。大量の枯草、落葉、長い乾燥に耐えてきた村木の葉などが飛火の材料に成ったと云う。しかし、当地の住宅が殆ど耐火構造でない木造であり、しかも、その屋根はShake Woodと呼ばれる木材を縦割りにした小片で葺かれていたことが、飛火の勢力を助長した大きな要因であると考えられる。乾燥した板屋根では雨のように降ってくる火の粉を防ぎ切れるものではない。加うるに、燃えた屋根板は質、量ともに草や葉よりも火の粉の材料として好適である。更に、被災地域拡大の最も大きな要因は、家屋の近傍の地表に放置された枯草と落葉の炎上ではないかと考える。焼失地域ほぼ全域にわたって地表は炎が走った形跡があった。典型的な地表火である。しかも、そこに存在する樹木は、地表の炎の熱で変色はしているが、炎上してはいない。地上の炎には負けてはいない。樹木の黒焦げ、炎上が確認されたのは、大部分は家屋の焼失跡の周辺である。建物は地上を這ってきた炎に負け、庭の樹木は建物の炎に負けたものと考える。

現地調査では、ほぼ3000棟もの家屋を灰にしたオークランドヒル火災のなかで、幸運にも焼け残った家と樹木との係わり、並びに焼失区域周縁(焼止線)と樹木の存在について主に観察してきた。以下にその事例を紹介したい。

 

 

 

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