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参考資料 I

(消防科学と情報 No.48 1997春号 p.16〜23)

 

□これからの地域づくりと防災まちづくり

〜「防災まちづくり大賞」にみる日本のまちづくりの風景〜

(株)マヌ都市建築研究所所長

東北芸術工科大学教授 高 野 公 男

 

1)転換期にある地域づくりの方法

 

いま地域づくりの方法は転換期にある。バブル経済の崩壊とともに右肩上がりの経済成長は終焉を迎え,その土地の自然環境や歴史・生活文化など地域の特性を活かした持続可能な開発やまちづくりが地域づくりの課題となっている。

防災という視点から見ると,わが国は自然災害に対する脆弱性がいまだ改善されず,大都市の過密問題,農山村地域の過疎問題を中心に様々な課題を残している。その問題のひとつの側面として,都市や暮らし方が近代化していく過程で,人々の生活意識が他律的になり,それまで培われていた自助性,相互扶助,連帯といった共同体文化や共に暮らすという共生意識が衰退してきている傾向が顕著であることが挙げられる。社会の大きな変容といえるが,これからの地域づくりは物的な側面だけではなく,人々の暮らし方や地域社会のあり方も含めて,そのあり方を総合的に捉えなおしていくことが求められている。

これらのことを踏まえ,いま全国総合開発計画では「21世紀の国土のグランドデザイン」の策定作業が進んでいる。昨年12月その中間報告が発表されたが,そこでは,豊かさの源泉である経済社会の活力の維持,自然の癒しや文化の創造,ゆとりと美しさに満ちた生活を支える国土を国土づくりの目標とし,経済的豊かさとともに精神的豊かさを重視した国土の構想が描かれている。つまり,地域固有の自然環境や歴史,文化,人々の暮らしのあり方をもう一度捉え直し,地域に根ざしたまちづくりをすすめていくことがこれからの国土づくりの重要な視点であるということである。そして防災に関して,災害にしなやかに対応でき,暮らしの安心を確保できる地域社会の再構築・防災生活圏の形成が大きく唱われている。防災まちづくりのあり方もここで改めて考える時期にきている。

今年度(平成8年度)から実施されることになった「防災まちづくり大賞」に選考委員として参加する機会に恵まれ,他の委員の方々と一緒に勉強させていただいた。推薦された活動事例のリストを眺めたとき,日本の防災まちづくりの歴史の一端を見る思いで感慨深かかった。期せずして大

 

 

 

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