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以下のメモは山本誠氏がカルター論文に対する反論として書かれて、1998年1月27日の「公海の自由航行プロジェクト」公開セミナーの席上で配布されたものです。

 

カルター論文に対するコメント

 

1. 平時あるいは局地的な低レベル紛争(LIC)下における事態としては、御説は誠に御尤もでありよく理解できます。

 

シーレーンのボトルネックがチョークポイントにあることは事業でありますが、何処か一ヶ所に支障を来しても、有機的に組織化されたシーレーンは、一時的なコスト高を生じる事は有っても全体としての機能を失うことは無いでありましょう。

恰も、人体の血管網の一部が切断されても、他の血管がバイパス機能を果たすようになるのと同じであります。

しかし、此等の事態の生起を防止し、且生起した場合でも混乱と被害を最小限に留める為の対策を検討し、講じておく事が肝要かと思います。

 

2. 更に、これより一段悪化した事態のことも考憲しておく必要があると思います。

 

例えばSea Denial Powerによる意図的な阻害が行なわれる場合、タイバートする先々のチョークポイントが次々と阻害される事も考えられますし、ある限定的な地域を目標とする場合はターミナル付近における阻害も考えられ、事態は深刻となります。

質・量共に発展した海運組織の現状から見て、シーレーンを物理的に完全に遮断する事は極めて困難かと思いますが、冒頭のプレゼンテーションで述べましたとおり、特にSea Denial Powerが潜水艦や高性能機雷を使用する場合にはその心理的影響は重大であり、船舶運航拒否等による大混乱も予測され極めて深刻な事態に陥る可能性も否定出来ません。

 

この種の事態に対してはNaval Powerによる対策が主軸となるものと思いますがバッアップシステムとして、此の様な事態における被害船舶の救助体制・船員に対する被害保証・各種保険等の対策を講じておくことも必要かと思います。

 

尚、皆様の中には、冷戦後の情勢下にSea Denial Powerによる意図的阻害等生起する可能性は無いとお考えの方も居られるかも知れませんが、当地域における情勢は極めて不透明であり、かつ古今東西予測どおりに事態が進展しないのが世の常であります。要するに物理的能力さえ有れば、情勢の変化により意図が変われば何時でSea Denial Powerに成り得ると云うことを申し添えておきたいと思います。

 

1998.1.27

山 本 誠

山本 誠(元自衛艦隊司令官・海将)

 

 

 

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