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は限らない。

第2の懸念は、地域の海上の安全保障における不確実な未来である。私達は、ここで最近の海上における不穏な動静について検討することとなっている。アメリカ、カナダ及びタイを除く殆ど全ての国が1982年国連海洋法条約を批准している。この重要な全地球的規模の公文書の批准は、海洋に関連する事項についての協力に対して強力な根拠となりうる。しかし、海洋法条約とそれ以前の条約との間の空隙は、新旧さまざまな問題、例えば排他的経済水域(EEZ)から生じる問題を悪化させてきており、将来意見が分裂する可能性がある。

第3の懸念は、地域内の海洋の安全保障に対する不正行為及び域内からの挑戦である。これら域内の力には、さまざまな形があり、受入国の不法移民管理から国家としての感覚の低さにまでわたる。これらの問題は、表面的には、些事に見えても信頼醸成措置のための脆弱な地域的枠組を阻害し、2国間関係を分裂させかねない。

ごく最近のASEANでは、欧州など他の地域ではありふれた外交上の挨拶程度に取扱われる政策や声明に対する抗議のため、加盟国の大使が招集されることがしばしばあった。国家は、普通、隣国の皮肉な言辞に対して戦争に突入することはありえないが、国家の威信を回復するためラテン・アメリカでは軍事力が使われた例がある。要は、脆弱な信頼醸成措置の枠組しかない地域においては、そのようなささいな事象でも問題に発展しかねないということである。

第4の懸念は、ナショナリズムの競合である。この地域のものとしては、尖閣諸島に灯台を建設しようとする日本の右翼の動きとそれに付随して発生した数回にわたる衝突及び1人が死亡した1997年5月最後の週の同島奪回を図った香港と台湾在住の中国人ナショナリストの活動はよく知られるところである。その他の場所においても然り、この地域ではナショナリズムがその危険な頭角をまたもやもたげつつある。このような競合をうまく抑えない限り、ナショナリズムはこの地域の安全保障にとって厄介なものとなりかねない。

より大規模な経済相互依存の醸成という点を除けば、この地域の戦略的な関心は、継続的な地域における海洋の体制を確立することである。この全般的な戦略的枠組において2つの緊急を要する安全保障上の懸念がある。即ち、アジアにおいてアジアの国どうしが戦う大きな戦争を避けることであり、そしてアジアにおける新しい冷戦が生じることを避けさせることである。

 

 

 

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