たが、これとほぼ同じ時期に、旅届級駆逐艦1隻と江衛級フリゲイト1隻から成る部隊もタイ、マレーシア、フィリピンの3カ国を訪問した。中国艦艇の外国訪問は1985以来11回目で東南アジアでの中国のプレゼンスが次第に増えつつある。
南シナ海のシーパワー・バランス
南シナ海の海底資源の探査について各国が討議する段階に至れば、当事者間の交渉は厳しいものになることが予想されるが、少なくともASEANの加盟国の間で紛争が発生することはありそうにない。
しかし、中国がミスチーフ礁の例のように、スプラトリー諸島の島々を一つずつ手に入れ、その上に既成事実を構築して行くことは十分考えられる。その際、中国は領有権を主張する国と面と向かって対決することを避けるため、哨所などの置かれていない島を慎重に選んで占拠して行くであろう。その占拠に対して、一国が軍事力で抵抗することはできても、そのような行動に出れば、中国から更に大規模な報復を受けることを覚悟しなければならない。
このような中国の行動に対して、ASEANを中心とした周辺諸国は、抗議は行っても、共同して実力で抵抗を始めることは考えられない。各国とも国防力の近代化に努力を注いだ結果、自国の防衛については相当な能力を持っており、NATO型の同盟軍を創設すれば、強力な軍事力となりうるはずであるが、現在そのような動きはない。こうした状況が続く限り、中国がスプラトリー諸島全体をやがて手中に収めることはそれほど困難なことではない。この海域に利害関係を有し、中国の軍事行動に対抗しうる国があるとすれば、それは、オーストラリア、イギリス、アメリカの3国であるが、いずれの国も紛争に巻き込まれることを望んでいない。
このような判断からか、中国はこれまで南シナ海における領有権交渉においても、当事国と1対1の交渉に固執し、複数の国々がまとまって交渉相手となることをかたくなに拒否してきた(ようやく、1995年8月のブルネイの会議で、スプラトリー諸島の領有権問題について、ASEANを交渉相手とすることを中国に認めさせることに成功した)。
米海軍のプレゼンスの重要性
海軍力のプレゼンスの実例として、1996年3月の台湾海峡緊張の際に展開したアメリカのニミッツNimitz CVN-68及びインディペンデンスIndependence