中国の海上権益および展望
新しいドクトリンと孫子の兵法
John Downing(国際戦略研究所海上防衛アナリスト)
再構築を開始する中国
1.この20年間で、中国は次第に毛沢東の防勢的な軍事ドクトリンから離れてきている。そのドクトリンとは持久戦そして人員を総動員することを基礎とする。新しい考え方は、両方展開戦略に基づき、本土から離れた地域で作戦行動を遂行するように訓練されたより小規模であるが均衡のとれた柔軟性のある兵力を運用する。より小規模とは、言うまでもなく比較の問題であり、300万人近い現役及び120万人の予備役を擁する中国人民解放軍(PLA)はどこから見ても巨大な組織である。しかし、その大きさにもかかわらずその装備の多くは古いか時代遅れで、一部に新しく取得したものがあるが、現代のエレクトロニクス環境のもとでの戦闘遂行能力にはかなり疑問が残る。しかし前向きの計画を進めていることは明らかであり、将来、PLAはより団結して行動し、より高性能なウェポン・システム及び戦術に期待をかけるつもりである。これらの目標に沿って、初期の再構築か既に実行に移されている。いくつかの新しい軍大学校が開設され、概して士官はこれまでよりも若く、高度の教育を受け、一層専門化されている。重複した指揮系統は整理統合され、軍区の数は17から7に削減された。ハイテクノロジーのウェポン・システムの取得が最重要事項となった。この目標は湾岸戦争(1991年)以来加速され、後述するように同戦争は中国の軍事思想に深甚な影響を及ぼした出来事であった。この目的に向かって中国指導部は、二つのアプローチ方法を採用してきた。第一は外国、特にロシアから装備を調達することである。ロシアは1996年4月のエリツィン・江沢民による軍事同盟宣言に伴い、最新の装備を売却する可能性のある日である。第二は、中央軍事委員会が国家戦略的課題と定めた国内での装備開発及び生産の推進である。特に注目に値するのは、改善されたコマンド・コントロール・システム、訓練の改善、協同作戦と沿岸防衛という焦点をさらに重視していることである。
2.このようなドクトリンの転換で重要なことは、戦場をPLAが選び、毛沢東の「攻撃された場合のみに反撃する」という制約から解放され、必要な場合には進んで武力を行使することを可能にしたことである。明らかにPLAの三軍種間の相対的重要度に変化が生じている。これまでは重要度が最も低かった中国海軍は今や最上位の軍で、空軍がわずかの差でこれに次ぎ、これまで最上位であった中国産車は第3位に下がった。本質的に中国の軍指導部は、純然たる防衛指向よりむしろ武力投入志向に傾注している。
3.現在起こりつつある変革は、実際は「近海(積極)防御戦略(green water active defense strategy)」と呼ばれる新しい海洋ドクトリンを中国が採用した1980年代にさかのぼる。中国の海軍戦略によれば、「積極防御」とは攻撃に対抗する目的で実施する防御(すなわちそれは自衛目的の攻撃又は守勢期間後の攻勢目的の積極的攻撃の可能性を除外しない)であるという。「近海」の範囲は、北はウラジオストクから南はマラッカ海峡まで、東は「第一列島線」までと定義される。この幅は中国本土から1000NMに及び、日本、フィリピン及び南シナ海を含む。現在の発展計画では2000年までにPLA海軍が近海艦隊となる構想を描いている。より長期的には2020年までに外洋能力獲得を予定している。
(この論文は1996年7月のウイルトン・ハークでのアジア・太平洋地域安全保障協力会議に提出されたものです)