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ぶための船を欲しがっている荷送り人がいるのを知った。幸いにして頻繁ではなかったが、船舶を盗むのは彼らの選択一つであった。文字通り、たいていは海上での乗っ取りであった。船上の貨物は乗組員もろとも捨てられてしまうのであった。イスラ ルソン号の場合の様に乗組員が海に投げ込まれて、その内の1人が死ぬという事もあった。

 

そうなると、この船舶は「幽霊船」とされてしまうのである。船舶登記官が無差別に仮登記書を発行するので、これは可能なことである。これまでに見られた件で、パナマ、ホンジュラス、ベリーズ、セントヴィンセント コンシュレートの登記官は幽霊登記を発行するのが特にうまい。

 

登記申込書は所謂貨物局と呼ばれる所、貨物補助局、あるいは東南アジアの海運会社へ提出される。幽霊船の登記には通常の何倍もの料金がかかる。贋の記入事項が書かれた書類は登記の際に係官に提出される。その結果として、3ヶ月間有効な「臨時登記証明書」あるいは「Provisional de Navegacion」に書いてある船舶や船舶持ち主についての詳細は事実ではない。

 

これは船舶がいくつもの名前をもち様々な詳細を記入して登記されることが可能なために、幽霊船の追跡が非常に難しくなる事を意味する。登記書は幽霊船の所有者となる人が実際にその船の所有権を持つ前にさえ取得できる。

 

この幽霊船の正体は所有者に盗難を働くための一番の手だてを与え、また、必然的に起こるであろう訴訟問題で所有者を守るのだ。この様な理由から、損害を受けた側にとっては幽霊船の逮捕が非常に難しくなる。

 

偽名を使った船はそれを欲しがる荷主に渡される。その荷主はただひたすらに貨物を積み、荷積み代を受け取り、荷揚げの港でその貨物の無事到着を待ちたい一心である。

 

荷受人はその船の到着を無駄に待つ事になる。―それが到着する事はないのだ。どのケースも、船は道をそらされて、貨物は降ろされ、他の港で他の荷受人に売られてしまうのだ。 こうした荷受人がそもそもの計略に入って居るのかどうかはわからない。自由な身になって、その船は再び新たな幽霊船として再登記され、犯罪を繰り返すために行ってしまう。

 

登記書に書いてある事は不正確であるし、大切な調査が終わるまでには事実上、船そのものが存在しなくなるので、こうした船舶を追跡調査するのは到底不可能になる。

 

1980年代、フィリッピンは船舶乗っ取りや注文による盗みで悪評が高かった。10年間の相次ぐ乗っ取り事件の中で、最初に失踪したのは1980年2月15日のコミコン号であった。船も25人の乗組員も発見されていない。

 

 

 

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