日本財団 図書館


さき」に向けた全局総出の問題である。

私は、都市の緑保全に向けて、現行の法律枠組みを前提としながら、次のような方策を考えたい。

第一は、各地域の特性を活かした「積極的なまちづくり〜緑の地区カルテ」の提案である。市街地特性を詳細に把握し、積極的に地域の都市像、必要な都市の緑の姿を市民に提示していくことである。地区内にある緑が近隣住民にとって必要なものであれば、地権者、市民、行政が一緒になって智恵を絞り、何ができるかを持ち寄り、良好な市街地形成に向け、快適で魅力ある都市環境を計画的に整備していくことである。

地域ごとの都市像がなければ、今回の事案のように行政は問題の後追いに終始せざるを得ない。これは、都市計画マスタープランの策定とも関連するが、より一層緑に焦点を絞るものであり、斜面緑地を含めた都市の緑保全を指向するものである。具体的には、次のような手順を踏むこととなる。

・ 斜面緑地の現況調査を行い、中学校区を単位として、都市緑の現状を把握する。

・ 都市緑の評価基準、段階分けの基準を作成し、具体的な緑の価値や優先順位などをまとめていく。

・ 各地区ごとの緑の価値・優先順位に基づき(緑の地区カルテ(案)を作成し市民に公表していく。

・ 地権者、近隣市民の理解を得たうえで、緑の地区カルテを完成させる。

・ 緑の地区カルテに用いた指標に基づき、都市緑地指導指針を作成する。

・ 開発時の行政指導の根拠として、指針・緑のカルテを利用する。

第二は、まちづくりを支える基本制度として、「住宅・宅地指導調整要綱」を「住宅・宅地指導調整条例」に昇華させることである。これは、行政指導に民主的な正当性を与えるものであり、「都市緑地指導指針」を行政指導の根拠規定として位置づけるためのものである。地方分権の展開のなか、都市計画は自治事務となる。事前協議を条例化することが都市計画法等の中請権を侵すか否かの議論は不要になる。

また、本市の行政手続条例制定のなかで課題とし残された次の点の整理を行い、「住宅・宅地指導調整条例」中に位置づけていくことである。すなわち、「公共の利益に資する場合の行政指導の継続」と「行政指導に従わないことが公共の利益に反する場合に、指導内容を公表する」旨の規定を新たに設けることである。市民との協議が整わない場合にも行政指導を継続できること、悪質な場合は氏名・開発内容を公表すること、これらを条例に盛り込むことで一定の抑止効果を持つ。

第三は、紛争調整の範囲を拡充することである。現在、開発者と市民間の争いを市が調整する仕組みとして、「川崎市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整に関する条例」がある。適用範囲は、住宅系高さ10m以上、非住宅系15m以上となっているが、良好なまちづくりに向け、この条例の適用範囲を拡大する。

第四は、横浜市、町田市、稲城市など近隣自治体と連携し、都市緑地保全に向けた共通課題の整理を図ることである。たとえば、緑減少の主な原因として、相続税のために緑地が売却され開発されることがあげられる。保全すべき範囲や条件を示し、特定地域についての相続税の軽減要望を行っていく必要がある。

第五は、緑保全のためのファンドづくりなど、市民と協働で新たな保全策を形造ることである。たとえば、地権者が苦慮する森林の維持保全については、市民ボランティアとの連携も有効と考えられる。図5は、「自然環境の保全及び回復育成に関する条例」に示された「川崎市における緑の保全施策・事業一覧」である。今後、各制度の見直しを図っていく必要がある。(この点については、現在、環境局内にて検討が行われている。また、いくつかの試みが「緑の30プラン」として描かれている。)

ここに掲げた五つの提案は、各々が関係性を有する。緑の地区カルテの作成、そしてこれを実現するためには、広範な市民運動の高まりが必要である。「持続可能な街、かわさき」という旗を高く掲げながら地域ごとの燃えるような議論を巻き起こしていく、これ以外に道はないと思う。また、三選を果たされた高橋市長の公約「市民健康の森づくり」、この構想策定から実現に向けた動きと、都市の緑地を保全し、新たな緑の創造に向けた動きは相互に交錯するものである。二十一世紀の川崎はどうあるべきか、都市像を確認しあうなかから自ずと道は開かれる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION