2 斜面緑地をめぐって
(1)規制緩和の地域に及ぼす影響
「市民からの要望書」が総合企画局に届けられた。斜面緑地開発の問題が詳細にまとめられている。斜面緑地は都市に残された最後の緑であり、市民の生活と一体となった緑の空間が大きく削られていくことが切々と述べられている。
手紙の差出人の住む地域は第一種低層住居専用地域であり、もともと三階までの建物しか建てられない場所だった。だが、規制緩和により斜面緑地は新たな利益を生む場所へと変容した。平均地盤面ごと10メートルの算定を行うことにより、大規模マンション建設が可能となった。
論点の一つは、規制緩和(地下室容積率の3分の1の不参入やマンションの共用廊下、階段の容積率不算入規制など)に伴う、良好な住環境の破壊であり、法の意図は個人住宅の快適さを求めたものであり共同住宅への容積率緩和は誤りではないか、という点にある。
川崎市は、「規制緩和に伴う容積率の緩和」に次のように回答した。
『? 地下室容積率の3分の1の不参入は、建築基準法の平成6年改正に伴うものである。すなわち、近年の居住形態の多様化に対する国民の関心の増大や市街地等における合理的な土地利用に対する要請の高まり、さらには住宅建築に関する技術等の進展などにかんがみ、住宅の地下室に係る容積率の制限の合理化を行うとともに、防火壁に対する規定が適用されない建築物についての手続きの簡素化を図ることを目的とする。
? マンションの共用廊下、階段の容積率不算入は、建築基準法の平成9年改正に伴うものである。すなわち、長時間通勤の増大などをもたらしている都市構造の形状にかんがみ、土地の有効活用を通じて利便性の高い構造住宅の供給促進を図り、職住接近の都市構造の実現に資するため、容積率制限についての合理化を図ることを目的とする。
従来、建築物の屋外に設けられるいわゆる「開放廊下」、「屋外階段」は、床面積に算入されないこととされていたため、共同住宅に関して、採算性等の観点からより多くの住戸面積を確保するため、共用の廊下・階段は屋外の吹きさらしに設ける形態が一般的となっていた。
しかしながら一方で、風雨の防止、プライバシーの保護等の観点から、共通の廊下・階段の屋内への設置が求められているにもかかわらず、容積率算定上の規制から屋外へ設置せざるを得ないなど、設計の自由度が妨げられている不合理が生じてきている。このため、市街地における良質な共同住宅の供給を促進するため、容積率算定において共用の廊下・階段の延べ面積を不算入とする合理化を行ったものである。したがって、市内で通常建設される共同住宅の大部分の供用の廊下または階段は、屋外に開放されており、床面積に参入されないことから、容積率にも不参入となっており、容積の緩和はこれまでとほとんど変わらないものである。
? 川崎市はこれまでと同じく、建築確認における形態規制として、日影規制、斜線制限、高さ規制などを行うので、建築基準法に基づく市街地の環境整備は、これまでどおり進められていく。』
法的にはこのとおりである。だが、斜面地の開発はこれまでも「基盤未整備宅地化地区」として多くの問題をもたらしてきた。丘陵地では計画的な面整備が行われない限り、斜面緑地の開発は尾根道、谷道にぶらさがって行われることになる。開発行為は自治体の道路整備計画とは別に行われるために、生活幹線道路の拡幅は行われず、個々の開発が集積することによる道路への負荷は大きい。万一の場合は二方向に避難ができず、日常生活の不便を生じる場合もある。
現在、開発者は取り付け道路がないため、道路敷(市道との接合部分)を埋め立てるべく、道路法24条(道路管理者以外の行う工事)の許可を求めている。また、既に、都市計画法第32条の事前協議(道路管理者の合意)は成立している。市民は4000人以上の反対署名を行い、徹底交戦の構えである。住民監査請求、そして請求却下を経て、現在、差止めを求める住民訴訟が提起されている。
(2)自治体の限界
環境価値を無視した政策展開は不可能である。だが、法は「建築の自由」をその前提としており(都市計画法や建築基準法など多くの制約を受けつつも)、「計画なければ開発なし」という、「まちづくり」本来の原則とは大きな隔たりがある。現行の法的な枠組みの中で、如何にして良好な環境を維持し、新たな環境を創出できるか、自治体の苦悩は尽きない。