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い「札幌市基本構想」に記されているレベルで考察しておきたい。

はじめに述べたように都市は、必ずしも永続するものではなく、むしろ過去の歴史を振り返ると栄枯盛衰を繰り返すものである。都市の衰退は、為政者の政策、戦乱や天災によるもののほか、産業構造の変化や自然環境の変化などに都市そのものが対応しきれなかったため起きることもある。

今後も札幌のまちが発展していくためには、環境負荷の低減が不可欠であるが、現在の都市構造そのものが環境への負荷が高い場合は、まちづくりの方向そのものを見直す必要がある。また、環境問題は市民生活や事業活動一般に起因する部分が多く、経済社会システムのあり方や人間の活動(ライフスタイル)そのものも見直していかなければならない。

エネルギー問題を例にとってみよう。札幌のような積雪寒冷の都市の場合、市民が集住して生活することにより冬季間の効率的な暖房、緊急時の相互援助や除排雪負担の軽滅などが期待できるが、従来のまちづくりの方向としては、急激に増加する流入人口の受け皿として、都心から概ね10km以上の周辺部において、低層住宅地を中心とする大規模な一体的開発が中心となってきたところである。このため、新しい「札幌市基本構想」では、都心縁辺部や地下鉄沿線等への居住密度を高めることなどにより、エネルギー効率の高い都市構造へと誘導することとしている。

さらに、札幌においてエネルギー問題に対応するためには、他の都市以上に、市民生活の快適性や利便性の追求を抑制する局面も予想される。札幌市では平成9年11月に「北国のエコアクションさっぽろ〜ローカルアジェンダ21さっぽろ」と題し、市民、事業者、行政のそれぞれの役割のもと、環境保全のための具体的な行動計画を策定した。この中の「環境保全のための市民の行動」章には、他の都市と同様の環境に配慮したライフスタイルに加えて、冬(雪)に関わる行動も定め、暖房機、融雪機、自動車、住宅など市民生活に密着した部分でエネルギーを節約することを求めている。

このような行動計画を推進し、環境と調和したまちづくりを進めるためには、行政主導ではなく「札幌市環境保全協議会」のような市民参加型・市民提案型の取組を拡大していき、市民一人ひとりが目先の快適性や利便性の追求ではなく、環境問題に対する地球的視野での関心を高めていく必要があろう。このため、新しい「札幌市基本構想」では、市民や企業の環境保全に対する意識を高めるとともに、環境負荷低減のための活動を支援・促進することとしている。

既に交通問題では、市民交通フォーラム「TRY(トライ)」の提言などにより、将来の都心交通のあり方を探るため、市民、事業者、行政が一体となって、都心循環バスの試験運行、荷さばきの時間帯区分などの「都心部交通実験プロジェクト」をスタートさせている。この実験プロジェクトを通して、マイカーの利用を控え公共交通機関を利用する、市民のライフスタイルの転換も試行される。

札幌は、19世紀には札幌本府建設、20世紀にはオリンピック冬季大会という国家的な事業によって発展を遂げてきたが、21世紀は、新しい「札幌市基本構想」が示しているように、市民が主役となって、生活都市としての魅力を低下させることなく、環境と調和したまちづくりを進め、持続的発展を続けていくことが最大の課題であろう。

(主な参考文献)

・札幌市環境白書 平成8年度版,平成9年度版

・札幌文庫19 お雇い外国人 (札幌市教育委員会編)

 

 

 

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