日本財団 図書館


昭和53年には市民による「カムバックサーモン運動」が起こり、翌年から豊平川にサケの稚魚が放流され、56年からはサケが回帰するようになり、現在に至っている。

このように昭和50年代の公害は、適切な対策により全般的に良好な状態に向かっていたが、新たに大きな社会問題となったのは、スパイクタイヤ粉じん問題である。(図3参照)この問題の特徴は、特定の産業や企業が主な原因となっていた従来の公害とは異なり、ドライバーも市民であり、かつ、スパイクタイヤ粉じんの影響を受けるのも市民であって、被害者が同時に加害者になるという点にあった。この問題は、法律や条例によるスパイクタイヤの規制とスタッドレスタイヤの使用に向けた官民あげての努力により、ほぼ解決をみたが、この頃から、自動車の増加による大気汚染や騒音などの自動車交通公害、日常生活に起因する近隣騒音、さらにはごみ問題など、市民の生活スタイルに密着した公害への新たな対応がもとめられてくる。

(4) 昭和60年代以降

昭和60年代以降、従来からの自動車交通公害や廃棄物に係る問題が深刻化する一方、自然環境の破壊や地球温暖化の問題など、内容が極めて多様化、複雑化し、環境問題が各国共通の地球的な問題であるという認識が広まってきた。

国は、平成5年に新たな時代の環境保全についての基本理念や各主体の役割、基本的な施策の枠組みを定めた「環境基本法」を制定し、さらに平成6年には環境基本法に基づき環境の保全に関する施策の基本的な方向を示す「環境基本計画」を策定した。札幌市においても、後述するように、新たな時代に対応した環境行政のあり方について検討を加え、平成7年に「札幌市環境基本条例」を定め、新たな枠組みによる取組を始めたところである。

(5) 札幌の環境問題の特徴  

以上、札幌の環境問題の変遷について、簡単に振り返ってみたが、その特徴として、次の2点があげられると思う。

まず、第一に日本の環境問題は、全体として経済の高度成長に歩調を合わせた形で産業公害が深刻化し、やがて、都市基盤の整備や規制の強化に伴ってそれが改善される一方で、消費生活と直結した都市・生活型公害が深刻化し、地球環境問題も懸念されてくるという傾向を歩んできたといえよう。しかし、札幌の場合は、産業公害の発生源となる重化学工業などの立地がほとんどない消費生活型の都市であったため、従来から都市生活に伴う公害が中心であった。

第二に、積雪寒冷の気候条件にあるため、冬に関わる環境問題が目立つということである。しかも、大気中の汚染物質が石炭による「ばいじん」から石油による「硫黄酸化物」へと変遷したように、一つの問題を解決しても、また新たな問題が発生しており、その対策には、なかなか終わりがない。

 

2 総合的な環境行政の推進

平成7年12月に制定した「札幌市環境基本条例」は、今後の札幌市の環境行政を推進していく上での基本となるものである。

この条例には、環境の保全に関する長期的な目標や施策の方向を定める環境基本計画の策定、事業者の環境影響評価に関する措置などについて規定されている。また、市民、事業者の立場から環境の保全に関する様々な協議を行う協議会の設置や、札幌市環境審議会へのその協議会が推薦する者の参加、環境基本計画策定に際しての市民及び事業者の意見の反映など、市民の参加のための規定を随所に設けていることが大きな特徴になっている。

環境基本条例において、市の環境行政推進体制の整備についても規定されたことを受け、助役を長とし関係局長で構成する庁内横断的な調整組織である「札幌市環境保全会議」を平成8年6月に設置し、総合的かつ計画的な環境行政の推進に努めるとともに、同じく環境基本条例に基づき、市民参加型の恒常的組織として「札幌市環境保全協議会」を設置した。この協議会の委員は次の40名で構成されている。

? 事業団体の推薦者 10人以内

? 環境保全団体の推薦者 10人以内

? 市の公募に応じた市民 10人以内

? 市長が適当と認める者 10人以内

協議会では、市民・事業者が自らの環境保全に関する活動を効果的に行うための方策、環境の保全に関する市の施策などについて、自白にテーマを設定して協議を行い、その結果を市長に報告している。この協議会は自主的に運営されているが、その活動はさらに活発化してきており、現在は、緑とエネルギーの二つの委員会を設置し、ビオトープマップの作成や環境問題についての市民対話集会の実現に向けて活動中である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION