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ては、住民の意識と行動のギャップ、つまり、環境保全が必要だということは理解していても、それが頭の中での理解に留まり、環境保全のための活動を実際に行うところまでは至っていないのではないかということが指摘できる。これは、我が国に限ったことではないが、自分自身で何もしなくても他人の努力によって改善された環境の恩恵を受けることができるという、環境の持つ性質により、行動が阻害されている面もあると考えられる。しかし、それ以外にも、個人の意志とは別に、環境に悪い影響を与えると知っていても社会生活の必要上そのような行動が避け得ないような社会構造的原因が存在することが考えられる。

このことから、環境対策が実際に効果を挙げるためには、環境に対する意識を高めるだけではなく、環境保全行動を促すための動機付けが必要であること、さらに、ライフスタイルの変化とあわせて、環境保全のための経済社会システムの改革のための施策が必要となることが指摘できる。

 

4 「都市型」環境問題の現状

(1)都市・生活型公害

戦後の経済復興期とこの後の高度経済成長期を通じて、都市への人口の集中と、それとともに生産・消費活動によって生じる環境汚染については、当時規制されておらず、産業公害問題は、特に大都市において顕著であった。当時の公害問題は地域の問題として認識されており、地方公共団体は、住民の批判、運動の前に、国における施策の実施に先立ち、自らの力で公害の解決に当たってきた。

昭和24年に東京都が「工場公害防止条例」を制定したのを始めとして、25年には大阪市が、26年には神奈川県が同様の条例を制定した。公害規制を直接の目的とする法律が制定されたのが30年代に入ってきてからのことであったことと比較し、公害対策に先鞭をつけたものとして意義は大きく、国の施策にも影響を与えた。

このように、地方公共団体、特に大都市においては、公害の監視、測定、取締等に直接当たるほか、各種の公害対策事業を実施する主体として重要な役割を果たしてきた。このことが、地域の特性に応じた効率的かつきめ細やかな対策の実施を可能とし、我が国の公害の迅速な改善に役立ったと評価されている。しかしながら、一方で、有機物質による水質汚濁、排ガス公害など都市・生活型公害のウェイトが高い汚染因子の悪化については大きな改善が見られることなく、また、快適さに関しては深刻な状況であった。

改善が見られなかった汚染の要因としては、産業活動からの環境破壊というよりも、むしろ人々の生活により近いところから生み出されている負荷を原因としている。人口やサービス経済活動の都市集中が持続する中で、物流や人々の移動を支えている交通・運輸、あるいは家庭から排出される廃棄物などに起因して、生活環境の質を広く損なっている汚染現象が生じており、過密化した都市構造や生活の利便の追求或いは都市的生活様式などと密接に結びついた都市・生活型公害のウェイトが大きくなっている。この都市・生活型公害に対しては、都市構造対策や都市的生活様式の見直しなど多面的対応が必要となっている。

 

 

 

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