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り、何が望ましいありかたを示したガイドラインであるかが、明らかになるはずである。したがって、今後、行政サービスの質を高めるためにいかに組織の統合を行い、弾力的な人事運用を行うか、また効率的な人的資源の活用を行うかは、各自治体の創意工夫によることになるだろう。

●分権の受け皿論

さて、このような必置規制が見直され、さらに機関委任事務の廃止、補助金の整理合理化等によって、自己決定権の範囲が拡大してくると、当然に自治体自らの責任で行政運営を行わなければならず、とくに高齢化社会の到来に伴う福祉サービスの担い手としての責任を全うするためには、各自治体は一定の行政能力を有することを求められるようになる。さらには、効率的な行財政運営の強い要請も生まれてくる。ここから、現在の多数の市町村の規模は小さすぎ、能力の向上と効率化を図るために規模の拡大が必要であるという「受け皿」論ないし「合併」論が出てくる。

このような小規模自治体の合併は、従来から促進されてきたところであるが、実際にはそれほど成果は上がっていない。それゆえ、そもそも合併は強制になじむものではないが、それでも今までよりも積極的な合併推進策の必要が主張されるようになってきた。そこで、勧告では、住民投票制度を含む住民の意思をより尊重する措置を講じるべきことを国に求めるとともに、合併促進の障害となってきた合併後の旧町村に対する優遇策などを設けることを提言している。

ただし、合併と一口にいっても、その事情はさまざまである。実際に合併が検討される場合には、いくつかの都市が政令指定都市をめざして合併し、さらに大規模な都市の形成をめざす場合もあれば、地方都市と周辺部の町村が合併し、行財政能力の向上を図る場合もある。さらには、農山村部の小規模町村がいくつか合併して規模の拡大を図る場合もある。はじめの大規模都市をめざしての合併の場合は、そもそも受け皿論の対象ではないといえよう。しかし、二番目の地方都市と周辺部との合併の場合には、たしかに行政運営の効率化、行財政能力の向上が見込まれるものの、合併によって行政施設等の中心部への集中が行われると、周辺部での行政サービスの質の低下が生じる可能性もあり、前述の旧町村の優遇策などが必要となる。最後の小規模町村の場合は、合併による行財政能力の向上という効果は、実質的にはそれほど期待できないかもしれない。この場合には、能力向上のための別の措置を積極的に検討すべきであろう。

●多様な広域行政のあり方

さらに、自治体の規模の拡大による効率化の程度は、行政サービスの分野によっても異なる。広域的に設けられるべき大規模施設を各自治体が造ることは決して効率的ではないが、今後導入が予定されている介護保険制度をはじめとして福祉のような対人サービスは、限定された範囲できめ細かく実施する必要がある。したがって、地方分権の「受け皿」の強化が必要な場合であっても、合併によって自治体の規模そのものを拡大するだけでなく、さまざまな広域行政の制度を活用して、行政分野に応じたサービス提供のあり方を検討すべきであろう。そのためには、現在、まだ活用状況が充分ではない広域連合の制度について、その活用の推進を図る方策を検討すべきである。また、その推進を図るためにも、充分な行政サービスの供給体制の形成を制約する必置規制等は可能なかぎり縮減・廃止されるべきことはいうまでもない。

なお、その際、広域的な行政サービスの提供体制を形成するとき、単に水平的な広域化だけではなく、それぞれの自治体の規模に応じた多様な役割分担のあり方も摸索されるべきである。たとえば、中心都市の周辺部の町村がその中心から一定の行政サービスを購入するといった方法とか、あるいは小規模な町村が、都道府県に自らの事務の一部を委託するといった方法も検討に値する。それらも関係する自治体のイニシアティブに基づいて実施されるかぎり、分権の趣旨にかなうといえよう。

いずれにしても、行財政能力を向上させ、効率化を図る方法にも多様なものがありうる。選択の幅を広げ、基本的に自治体の自己決定によって選択できるようにすることが大切である。

●行政体制の整備

さて、このような分権の「受け皿の整備に加えて、自治体が自己責任を全うするためには、狭義の行政体制の整備も重要な課題である。これは、そもそも自治体の「自治」に属することがらといえようが、地方自治の制度が国によって作られ、地方行政が国の行政と密接に結びついて

 

 

 

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