必置規制の縮減・廃止と地方行政体制の整備
森田 郎(東京大学大学院法学政治家研究科教授)
●地方分権推進委員会の第2次勧告
7月上旬、地方分権推進委員会の第2次勧告が内閣総理大臣に提出された。この勧告では、昨年12月の第1次勧告に引き続き、機関委任事務廃止後の事務区分についての整理がなされたほか、国と地方の関係調整ルール、都道府県と市町村関係、さらに補助金税財源のあり方、必置規制の緩和・廃止および地方行政体制のあり方についても勧告がなされた。残された課題についてさらに9月末に勧告が予定されているものの、地方分権推進のための主要な論点は、今回の勧告におおむね含まれているといえよう。
筆者は、1996年の4月以来、参与として地方分権推進委員会の活動に参加し、主として行政関係検討グループに所属するとともに、本年1月以降は、新たに発足した地方行政体制等検討グループの幹事として、主に必置規制の縮減・廃上のための検討作業に従事してきた。ここでは、その過程でなされた議論を踏まえ、必置規制の廃止を含む地方行政体制の問題について、筆者なりに整理してみることにしたい。
●自己決定権と自主組織権
今回の分権改革によって、機関委任事務が廃止され、国による多くの関与がなくなることになった結果、地方自治体は、その自己決定権の範囲を拡大することになる。すなわち「自治」の拡充が可能になるのである。もとより現実に自己決定が増えるか否かは、各自治体の決意次第である。しかし、これまでは集権的な諸制度によって制限されていた自己決定の範囲が拡大することは間違いなく、その点に今回の分権改革の最大の意義がある。
ところで、自治体の自己決定権の拡大は、その決定に対する責任の増大を伴う。自治体が自らの決定で実施するさまざまな施策の結果については、自治体が自らその責任を負わなければならない。それゆえに、自治体の首長・議会は、住民のエーズを正確に汲み取り、それに的確に応えて行政サービスを提供していかなくてはならない。
その際、どのようなサービスを、どのような体制によって提供していくかということは、本来、自治体自身の決定に委ねられるべきことがらであり、いかに効率的に必要かつ充分なサービスを提供できるか、また施策の決定過程をいかに透明度の高いものにするかが、各自治体の力量の問題として問われることになる。また、このような透明で公正な決定過程を経て、もっとも効率的な行政サービス提供の体制を作ることは、現在、喫緊の課題である行政改革の目的に資するものであることもいうまでもない。
このように、自治体が地域の事情に応じた個性ある政策を実施していくためには、各自治体が柔軟にその事務執行体制を編成することが不可欠である。このことは、法律によって自治体に義務づけられた事務を実施する場合についてもいえることである。そして、これは、今述べたように限られた資源を効率的に用いてニーズに応じた的確な行政サービスを提供するために必要であるというだけではなく、そもそも憲法第92条に規定されている自治体の自主組織権の要請でもある。
●必置規制とその問題点
しかし、実際には、多数の法令や、ときには通達によって、自治体の組織や人事のあり方が規定され、自主組織権が制限されている場合が少なくない。一定の機関や職の設置を義務づけたり、職員が一定の資格を有することや、それらの職員の配置基準や定数、さらにはそれらの職員が他の業務に従事することを禁じる専任規制などのいわゆる「必置規制」が多数設けられているのである。ま