明らかなのは、いずれの事例においても、政府システムをトータルに改革し再生させようとしていることだ。また、国と地方を通じる行政内部事務の簡素・効率化だけではなく、市民に対する公共サービスの質の向上を目指している点も見逃せない。いわば改革の枠組みが広く、その奥行きも深いのである。
V. 再び地方分権改革とは何か
地方分権改革の目標とは、政府システムの総体をつくりかえ再生させることである。日本国憲法の主旨を踏まえるならば、そこから市民と政府・公共部門との関係をいかに再設計するかという、新鮮なテーマが浮かび上がってくる。地方分権改革によって、どのような政府システムをつくり得るか。市民にとって、政府・公共部門のユーザビリティ(使いやすさ)は高まるのか。政府システムを再構築して「市民の政府」を形成するために、日本でも新たな改革視点に立つ時期に来ているだろう。
世界銀行の最新レポートは、「地方分権は、それ自体がゴールではなく、単に権力や財源を下位レベルの政府に転移することでもない」という。つまり第1に、市民の充足という観点からサービス・デリバリーの改善と分権化を進める必要があり、サービスに対する市民の充足度は改革の成果を測る尺度になる。
サービスを分権化するには、第2に、国がマクロ経済の管理と財政の再建とに責任を持つ必要があり、政府間の新たな分業のための財政ルールを確立することが欠かせない。そして第3に、自治体のガバナンスに対する市民参加の多様な経験を蓄積すべきであり、参加を権利として自覚する市民意識の醸成こそが、地方分権の最良の防波堤であると説いている。
つまり地方分権改革には、政府・公共部門の効果的なサービス・パフォーマンスと、そのガバナンスヘの民主主義的な参加というより深い目標があるのだ。政府システムを再生させようとする改革にあたっては、過去の清算に加えて、しっかりとした将来目標の設定とその目標管理とが欠かせない。この点を繰り返し確認し実行することが、時代の岐路に立ついま、私たちに求められているのではないだろうか。